クラウドの進展、スマートフォンの普及、ソーシャルの台頭――。激変する情報化社会においてITリーダーが自らの価値を高めるには、ITの役割をゼロから発想し直す必要がある。そのための示唆に富んだ、米ガートナーのリサーチ部門総責任者Peter Sondergaard氏をはじめとするアナリストたちの講演を5回に分けてお届けする。これは、米オーランドで2011年10月16~20日に開催された「Gartner Symposium ITxpo 2011」のキーノートをまとめたものである。今回は前回に引き続き、Peter Sondergaard氏が変革期のITリーダーのあり方を解説する。
 なお、講演の動画は、ガートナーの日本語サイトから視聴できる。

 前回に説明した「クラウド」「ソーシャル」「情報」「モバイル」という「四つの大きな力」。これらのすべてが組み合わさった新しい集合体を考えてみてほしい。データセンターはデータクラウドに置き換わり、モバイルデバイスはパーソナルクラウドの窓になる。パーソナルコンピューティングは大規模なコラボレーティブコンピューティングへと姿を変え、情報通信技術は情報エコロジー(社会環境との関与を重視した、新しい情報システムのあり方)の影に隠れるようになるだろう。

 また、四つの大きな力がもたらすインパクトによって、この20年の間に構築された情報システムは時代遅れとなることを強調しておこう。四つの大きな力は、ポストモダンなビジネスを創造し、シンプルであることを促し、ゼロからの変革を実現するからだ。

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 ただし、すべての変化は常にリスクと隣合わせにあることも忘れてはならない。事実、先進的なクラウドサービス・プロバイダー、例えば米Amazon.com、米Google、米Microsoft、米Salesforce.comなどは、サービス停止などのリスクに苦しんできた。これらのベンダー以外にも、リスクが顕在化した大手企業は多い。例えば、ソニー、米Lockheed Martin、加Research in Motion、米Citibankなどだ。

 リスクの顕在化については、運用上のミスが原因であることもあれば、ハクティビスト(社会的・政治的な主張に基づいて活動するハッカー)による、これまで見たことのないような大規模な攻撃のターゲットとなってしまったケースもある。また、ソーシャルネットワーキングでの過ちは、ブランドに大きなダメージを与える。

重要リスク管理指標を取り入れて他社に先んじる

 こうしたリスクに立ち向かうには、新たなアプローチが必要だ。

 具体的に考えてみよう。例えば、役員レベルでは、ビジネス上の成果に直接かかわらない「オペレーショナル」データにとらわれてしまい、本当のゴールを見失ってしまいがちだ。ゴールとオペレーションが連携していないため、努力の割に成果が上がらず、リスク管理は時間の無駄であるという考えがまん延している。だが、これは間違いだ。

 リスク管理をビジネスの文脈に取り込むことは、リスク調整型バリューマネジメントの基盤となる。リスク調整型バリューマネジメントとは、「戦略の立案」と「実行」の間に存在する幅広いギャップを埋めるために、ガートナーが考えたモデルである。

 成功の評価にKPI(重要業績管理指標)を利用するのと同じように、リスクの管理にもKRI(重要リスク管理指標)が必要である。このKRIは、プロジェクトの障害となるものではなく、どのように行動すべきかを示す指針を与えてくれるものである。優れたリスク管理指標を使っている企業は、競合他社に先んじることができる。現在のように経済環境が大変な時期であればなおさらだ。

 今まさに、第二の景気後退局面が到来しようとしている。我々は、どのように舵を取るべきなのかを決断しなければならない。

 ガートナーの予測では、2015年まで全世界の企業のIT支出はおよそ4%の年間成長率で堅調に推移する。この予測は、特に米国、日本、西欧において、今後も経済環境が不透明で鈍い成長が見込まれることを前提にしている。現地通貨で計算した場合、西欧市場と日本市場は2012年にマイナス成長となる見込みだ。このため2012年の企業および消費者のIT支出の成長率はわずか3.9%となる。