クラウドの進展、スマートフォンの普及、ソーシャルの台頭――。激変する情報化社会においてITリーダーが自らの価値を高めるには、ITの役割をゼロから発想し直す必要がある。そのための示唆に富んだ、米ガートナーのリサーチ部門総責任者Peter Sondergaard氏をはじめとするアナリストたちの講演を5回に分けてお届けする。これは、米オーランドで2011年10月16~20日に開催された「Gartner Symposium ITxpo 2011」のキーノートをまとめたものである。なお、講演の動画は、ガートナーの日本語サイトから視聴できる。

 想像してほしい。今、皆さんのいるこの講演会場が、20年前はどのような様子だったかを。パソコンを持ち込んでいる人はいないだろう。スマートフォンやタブレット端末を持っている人もいないはずだ。もちろん、小声で携帯電話を使っている方もいない。せいぜい、ファクシミリを送るために会場内から出ていく人がいる程度だろう。

 今はどうだ。会場内ではなく、世界規模で見回してみよう。この20年間の変化の大きさが分かる。例えば、世界中にあるスマートフォンの数は約8億台。パソコンは15億台だ。インターネット利用者は約20億人で、インターネットに接続されたデバイス数は50億にも及ぶ。1カ月あたりのグーグル検索数は870億回であり、28エクサバイトに及ぶデータの移動が行われている。そして、格納されているデータ量は350エクサバイトとなる。こうした変化は今なお継続中で、数字は増加する一方である。

 今、ITリーダーに問われているのは、このような劇的な変化に直面する準備ができているか否か、である。ITリーダーが価値を発揮するためには、ITの役割を新たな発想でとらえ、企業の最前線に立って情報システムを導いていく必要がある。

 このためにITリーダーがしなければならないことは三つある。ポストモダンビジネスの構築、シンプル(簡潔さ)の追求、そして、ゼロからの変革だ。追って詳しく説明するが、まずは概要をつかんでほしい。

タイトル

●ポストモダンビジネス
 一つめは、「ポストモダン」なビジネスを進めること、言い換えれば顧客との関係によって主導されるビジネスのあり方を構築することである。モバイル端末などの爆発的な成長、およびそれを支えるクラウドにより、あらゆる場所に顧客が存在し、それに適応した形でビジネスを進めなければならない。

●シンプルさの追求
 二つめは、使う人とそのニーズをデザインの中心に据えて、シンプルさを追求することである。技術的要素は利用者の目に触れないようにしつつ、シンプルにやりたいこと、つまりニーズを実現できるようにすることが求められる。

●ゼロからの変革
 三つめが、過去からの遺産を振り払い、ゼロからの変革(創造的破壊)を実現することである。具体的には、影響の少ないシステムを選択して順次なくしていき、同時に新しいソリューションを採用するというリスクを追う必要がある。これによって古いソリューションはその存在が脅かされるか、排除されることになるだろう。

 2011年は、進化したIT技術がどれだけ大きな力を発揮するのかを目の当たりにした年だった。例えば、Twitter、Facebook、Ushahidi、スマートフォン、そしてYouTubeといった比較的新しいIT技術が、「アラブの春」と呼ばれる中東の民主化運動の盛り上がりで大きな役割を果たした。日本の東日本大震災においては、IT技術が復興支援で活躍した。全米に広がった「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」運動のまとめ役を果たしたのも、イギリスの暴動の広がりに拍車をかけたのも、こうした新たなIT技術であった。

 新しいIT技術は、革命の力となると同時に、経済を後押しする役割も果たす。2011年、ITに10億ドル以上の投資を行う予定の企業は350社を数える。なぜ、これほど多くの企業がITに投資するのか。これらの企業が、ITこそがビジネスのパフォーマンスに大きな影響力を持つと考えているからである。情報通信技術こそが、ビジネスの成長の主要因になるととらえているわけだ。

 実際に、CEO(最高経営責任者)の3分の2が、これからの10年、各々の業界におけるITの貢献度は過去のいずれの時代よりも大きくなるだろうと考えている。したがってIT部門は、激変する情報化社会の傍観者でも受身の見物人でもなく、自らその変革をリードしていかねばならない。今日のITプロフェッショナルは、グローバルな政治環境を変え、グローバルな経済環境の発展を促す力を発揮する必要がある。

 新しい時代と共に急速に到来した、抗しがたい「四つの大きな力」。すなわち、「クラウド」、「ソーシャルネットワーキング」、「モバイル」、「情報の爆発的な増加」が一つになったとき、ビジネスと社会に革命を起こし、次世代のコンピューティングが定義される。この変化を理解するには、四つの大きな力の一つひとつを正しく評価する必要がある。