ソフト任せの歩留まり計算に落とし穴
東北佐竹製作所

 運用や実装のフェーズでは、設定した基準と実態との間にずれが生じていないかをチェックすべきだ。例えば籾摺機など穀物関連機械製造大手のサタケ(広島県東広島市)の生産子会社、東北佐竹製作所(岩手県北上市)は管理基準の歩留まり率をチェックしたことによって、意外な落とし穴を発見できた。

縦横の最大寸法で歩留まりを計算していた

 2009年のある日、東北佐竹製作所の秋井文夫常務取締役工場長(写真1)は、切断加工の現場を回って驚いた。「どうしてこんなにもったいない板の取り方をしているんだ」

写真1●東北佐竹製作所の秋井文夫常務取締役工場長。原材料の廃棄スペースを工場の敷地内で最も人通りがある場所に置き、廃棄物に対する意識向上を図っている(左)。東北佐竹製作所が使用しているレーザー加工機(右)
写真1●東北佐竹製作所の秋井文夫常務取締役工場長。原材料の廃棄スペースを工場の敷地内で最も人通りがある場所に置き、廃棄物に対する意識向上を図っている(左)。東北佐竹製作所が使用しているレーザー加工機(右)
写真撮影:井上 健

 この現場ではステンレス鋼板をレーザー加工機で切断し、製品に必要なサイズの板を取っている。必要な板を取り終え、スクラップに出すことになる鋼材を手に取ったところ、余りの部分がたっぷりとある。昨今の原材料高はステンレス鋼板とて例外ではない。こんな無駄な部分が多い板取りレイアウトを認めるわけにはいかなかった。廃棄物が多ければ、スクラップにかかる金額もかさんでしまう。

 ところが板取りレイアウトの担当者に理由を尋ねると、意外な答えが返ってきた。「ソフトの計算では70%の歩留まり率です」。このソフトとは、板取りレイアウトを立案するネスティングソフトのこと。本当に70%であれば許容範囲だ。しかし秋井常務は「実際の歩留まり率はもっと低いのではないか」と納得しきれなかった。

 同じ時期、秋井常務は原材料の無駄に対する意識を高めてもらおうと考え、マテリアルフローコスト会計(MFCA)の講習会に、原材料調達を管轄する管理部の川村公悦部長や製造部門の係長などを参加させていた。そこで2009年10月、MFCAについて詳しい日本能率協会コンサルティングの下垣彰MFCAセンターマネージャーチーフ・コンサルタントに指導を受けながら、現場の廃棄量などを調査した。

 東北佐竹製作所の生産の流れは、原材料の投入後、切断、溶接、塗装、組み立てと進む。各工程の廃棄物の量を調べると、予想通り板取り加工の工程で大半が発生していた。そこで板取り加工について詳細に調べた。

図●ネスティングソフトが算出した歩留まりに落とし穴があった
図●ネスティングソフトが算出した歩留まりに落とし穴があった
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 具体的には、CAD(コンピュータによる設計)で起こした図面を出力し、様々な形状の板の面積を手作業で1つずつ計測。これを元のステンレス鋼板の面積と比較し、正味の歩留まり率を割り出した。(図1

 あるレイアウト案ではネスティングソフトが歩留まり率76%と算出したが、正味の歩留まり率は64%にとどまった。他のレイアウト案も調べたところ、ほとんどのパターンで正味の歩留まり率はソフトの算出値より10ポイント前後も低いことが判明した。秋井常務が現物を見て感じた歩留まり率の低さが裏付けられた。

 ソフトの計算値と正味の歩留まり率に開きが出たのは、ソフトの計算方法に仕様上の問題があったからだった。不定形の板を「縦横それぞれの最大寸法に基づいた長方形」と見なして歩留まりを計算していたのである。

歩留まり5ポイント改善、廃棄物も減少

 この結果を受けて、東北佐竹製作所は2009年12月から改善に乗り出した。板取りのレイアウト担当者は、ネスティングソフトの自動作業に頼るのをやめ、原則として手動で作成するように体制を改めた。

 管理部門ではレイアウトの改善を支援するために、調達する鋼板のサイズを一部見直した。例えば縦4尺、横6尺の鋼板で横幅が足りずに1枚しか取れないケースがあったため、横8尺の鋼板を調達するようにした。さらに原材料の購入量と、製品になった板の分量のそれぞれを、重量で現場に提示するようにした。「原材料の価格は重量で換算する。このため個数や歩留まり率よりも重量で示すほうが、どれだけの金額を無駄にしているのかが現場に伝わりやすい」(川村部長)

 一連の工夫により、1年間で正味の歩留まり率は平均5ポイント改善した。板取り工程の改善活動に刺激を受け、後工程でも廃棄物に対する意識が高まってきた。例えば塗装工程では塗料を効率的に吹き付けることなどで、塗料の廃棄量を減らす改善が進んだ。

 その結果、2008年に年間2000万円以上発生していた工場全体での廃棄物コストは、2010年に500万~600万円ほど減った。今後さらに改善を目指す。秋井常務は「原材料の歩留まりや廃棄物の処理にかかるコストについて、改善の余地が無いかどうかを現場が主体的に考えるようになった」と目を細める。