戦略とずれているKPI、現場に浸透しないKPI、本質的な問題を拾えない「対象の定義」---。間違った基準は、成果を生まないだけでなく、現場の疲弊にすらつながる。今回からは、基準を見直すための5つのチェック項目を、事例に基づいて解説していく。

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図1●5つのチェック項目
図1●5つのチェック項目

 5つのチェック項目(図1)の1つ目は「コントロール可能な基準ですか?」だ。KPIを設定して目標を定めても、現場にそのKPIを改善する手立てが無いようでは定める意味が無い。現場の業務分掌や権限、業務環境などを考慮し、現場の努力で改善可能かを見極める必要がある。

 2つ目のチェック項目は「良しあしを判断できますか?」だ。例えば生産性や歩留まりといった総合的な成果を示すKPIは、個々の現場の改善度とどう結びつくかが見えにくい。現場の改善度を判断する基準に分解した指標を設定しなければ改善意欲が萎えてしまう。

 3つ目は「管理すべきプロセスに抜け・漏れはありませんか?」。既成概念にとらわれて目につきやすい現象ばかり見える化や管理の対象としてしまうと、より重大な改善ポイントを見過ごすケースがある。これを防ぐには、環境会計の一種であるマテリアルフローコスト会計のようなフレームワークで生産プロセスの全体像を捉え直したり、ロジックツリーを描いて売り上げ増加に有効な営業プロセスを網羅したりといった、俯瞰的な取り組みが有効だ。

 4つ目には「有効なITツールを使っていますか?」を挙げた。「こんな基準を使いたいが、現実的にデータが取れない」と諦めていたKPIも、ITツールの活用などによって管理が可能になってきた。こうした工夫とセットでより多くの情報を見える化の対象範囲にすれば、本質的な問題を見落とすリスクが低下する。

 適切な基準を定めたつもりでも、そこで安心してはいけない。実装・運用段階で意外な落とし穴が隠れていることがある。これが5つ目のポイントだ。KPIとして管理するデータを取得する際に、現場との意思疎通がうまくいかず誤った定義の数字や情報が報告されたり、ITツールの計算ロジックが不正確なことに気づかなかったりといったケースが見られる。また、KPIで良しあしを明らかにするだけでなく、PDCAサイクルでいうチェックやアクションの実行状況まで見える化するなどの工夫が必要だ。

 今回は1つ目の視点、「コントロール可能な基準ですか?」の重要性を物語る事例を紹介しよう。