情報を分析して課題を浮かび上がらせるうえでは、情報が多いほど正確な分析ができる。しかし情報量が膨大になると分析に手間取り、タイムリーに答えを出せないという課題も生じる。住友生命保険は顧客の苦情分析の対象を、一部から全件に拡大するに当たり、ITツールを活用してこの課題を克服した。

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 2005年に表面化した保険金の未払い問題は、顧客の声に耳を傾けることの重要性を保険業界に改めて認識させた。各社は顧客対応の拡充に力を入れている。

図1●対象範囲の定義を見直す
図1●対象範囲の定義を見直す
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 住友生命保険では2010年度に実施した「お客さま満足度アンケート」の回答で、「満足」「まあ満足」が占める割合が、前年度比1.3ポイント、2008年度比で6.5ポイント増加した(図1)。

 この成果に寄与したと見なされているのが、同社が2009年7月から取り組んでいる「クイック24」。顧客の問い合わせや依頼、苦情などがあった場合に、24時間以内に連絡を取って面談のアポイントメントを入れる活動だ。経営トップが「最も重要な課題」と位置付けて全社的に取り組みを促している。各支社・支部の苦情への対応状況をモニターし、四半期ごとに表彰する。

図2●「苦情」の定義を変えることで従来見えなかった問題を把握
図2●「苦情」の定義を変えることで従来見えなかった問題を把握
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 クイック24は、顧客から「手続きが遅い」という苦情を多く受けたことへの問題意識から始まった。しかし2007年以前は手続きが遅いという顧客の不満が多いことすら、社内の共通認識になっていなかった。これが表面化したのは、2007年7月に苦情の定義を見直してからだった(図2)。

営業現場で解決した苦情も吸い上げる

写真1●お客さま満足推進室の島田聡室長(左)と崎山篤樹調査役
写真1●お客さま満足推進室の島田聡室長(左)と崎山篤樹調査役

 住友生命は2003年にコールセンターを設立し、顧客の問い合わせや意見、苦情に対応する体制を整えた。それ以前からも支社や支部など営業現場には様々な顧客の声が寄せられていた。しかしこの時期の苦情の定義は「お客様から契約・サービス、募集行為などに関する不満足の表明があったもののうち、会社としての対応・回答を必要とするもの」となっていた。主に経営者や各部門の責任者による説明や謝罪が求められたケースが苦情と見なされていたわけだ。お客さま満足推進部次長兼お客さま満足推進室長の島田聡氏(写真1)は「支社や支部での謝罪や説明で解決したものは苦情の定義に含まれなかったため、お客さま満足推進室に情報も上がらず、どのような内容だったかすら把握できなかった」と話す。

 「見落としている苦情があるのではないだろうか」。2007年1月にお客さま満足推進室が発足したのを契機に、島田室長らは住友生命に寄せられる全ての意見を現場から報告してもらうことにした。従来支社や支部で対応を完了していた声も苦情に含めることとし、同室で分析するためだ。「従来見えていなかったお客様の不満に対応できるようにしたかった」と島田室長は話す。

 しかし全ての情報を吸い上げると、量が膨大になり読み込みや分析に時間や人手がかかる。そこで2007年4月、文章を単語や文節単位に区切り、出現頻度や相関などを解析できるテキストマイニングツールを導入した。支社や支部、コールセンター、本社といった各部で受け付けた顧客の意見や要望の全てを、現場で「お客さまの声管理システム」に入力する。この情報をクオリカのテキストマイニングツール「VextMiner(ベクストマイナー)」で分析し、どのような苦情が多いのか、それぞれの苦情の増減はどうなっているかを調べていく。

 こうした体制を整え、2007年7月から顧客の声の全件分析に取り組んだ。全社から上がる情報は、予想通り従来の倍以上に増えたが、テキストマイニングによってお客さま満足推進室が短時間で分析することが可能になった。