経営環境の変化に伴う戦略転換の号令を、ただ発しただけでは現場は変わらない。業務管理のよりどころである現場のKPIも戦略的に変更する必要がある。通販大手のベルーナは、リピーター重視の新戦略を打ち出すに当たり、現場のKPIを効率性重視から顧客重視に切り替えた。

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写真1●領家丸山流通システムセンター(埼玉県上尾市)の出庫作業風景
写真1●領家丸山流通システムセンター(埼玉県上尾市)の出庫作業風景
物流改革プロジェクトで、受注翌日に出荷作業が完了する体制が整い、注文から商品お届けまでのリードタイムは2週間から4.98日へと短縮

 「顧客系のKPIが全然ないじゃないか」

 ベルーナ取締役情報システム本部長を務める野村育孝氏は2006年に現場(写真1)を調査した時、KPIに大きな偏りがあることに気づいた。

 2004年にIT(情報技術)企業から転職して情報システム担当を務めていた野村取締役は2006年1月に発足した「次世代プロジェクト」に加わり、業務の洗い出しに関わっていた。同プロジェクトの目的は、業務の仕組みと情報システムを再構築し、顧客サービスの品質を上げることだった。

 冒頭の指摘は、プロジェクトの初期にコンタクトセンターや物流センターといった現場を調べた時のものだ。「時間当たりの作業処理件数」などの効率性指標が多く存在する一方で、顧客サービスのレベルを測る指標は極めて少なかった。「コンタクトセンターの指標に、顧客からの問い合わせに1回で答えた率を表す『即答率』が無かったことには驚いた。通販事業では基本中の基本ともいえる指標だからだ」(野村取締役)

サービス向上で「卒業顧客」を引き留める

写真2●「KPIを変えることには当初、現場からの反発も大きかった」と話す野村育孝取締役
写真2●「KPIを変えることには当初、現場からの反発も大きかった」と話す野村育孝取締役

 顧客系のKPIが使われていなかったのには理由がある。それまで総合通販事業では、折り込みチラシを大量にまいて新規顧客を獲得する戦略を採っていた。しかしネット通販などとの競合が激しくなり、2002年をピークに新規顧客数は伸び悩んだ。一方で、「2年以上購入しない『卒業顧客』が2004年から10万人単位で増加し、2007年には顧客総数が減少に転じると予測していた」と経営企画担当の安野雄一朗取締役は話す(写真2)。

 卒業顧客増加の理由の1つとして問題視したのが、サービスレベルの低さだ。「注文受付時に正確な納期を回答できない」「配送までのリードタイムが2週間以上」。カタログ通販全盛時には問題にならなかったこうした対応が、ネット通販が普及して翌日配送が業界標準となるにつれて、顧客の離反を招いた。「総合通販はアパレルなど季節性の高い商品を含む数万点の商品を扱うので、特定分野専門のネット通販と比べて納期の面で不利。とはいえ2週間というリードタイムは、総合通販業界でも長いほうで、一刻も早い改善が必要だった」(安野取締役)

図1●戦略KPIの見直し
図1●戦略KPIの見直し
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図2●戦略の変更に伴いKPIの見直しに踏み切る
図2●戦略の変更に伴いKPIの見直しに踏み切る
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 そこで新規顧客重視からリピート顧客重視へと戦略を切り替え、次世代プロジェクトを発足させた(図1,2)。注文や配送、代金支払い、問い合わせ対応など「フルフィルメント」と呼ばれる通販のオペレーション全般で、11の改革テーマを設定し、顧客サービスのレベル向上を目指した。テーマの内訳は「コンタクトセンターでのお客様対応力向上」「お届けまでのリードタイム短縮」などだ。

 全てのプロジェクトは2010年1月に完了。配送までのリードタイムがプロジェクト開始前の3分の1近くにまで短縮するなど、サービスレベルは大幅に向上した。この結果、2010年3月期は2年以内に購入した「アクティブ会員」が前年同期比で1.3%増加した。2007年3月期から2009年3月期までの間で約1割減少してきたが、巻き返しに転じた。