本特集は、現場の見える化の基準を適切に見直し、成果を上げた事例とその着眼点を掘り下げている。まず第1回は半導体切断装置最大手、ディスコにおいてなぜ基準の見直しが必要だったのかをトップに聞いた。第2~第4回は同様に事例編として1社ずつ取り組みを紹介していく。第5~第9回のノウハウ編は、見直しに必要な5つの視点を解説する。

※  ※  ※

 ディスコは半導体切断装置で国内最大手。生産部門から管理部門まで、あらゆる現場で改善に励む「PIM(パフォーマンス・イノベーション・マネジメント)活動」を2004年から展開している。

写真1●ディスコの関家一馬代表取締役社長兼技術開発本部長
写真1●ディスコの関家一馬代表取締役社長兼技術開発本部長
写真:北山 宏一

 関家一馬代表取締役社長兼技術開発本部長(写真1)はトップ自らPIM活動を盛り上げる行動派。同社では活動の改善事例や現場での悩みごとを共有する15のPIM活動推進委員会が毎月1回開催される。関家社長はその全てに顔を出すようにしている。

 そんな関家社長は、PIM活動が始まってから2年が経過した2006年頃、現場の管理指標が果たして適切なものなのか、疑問を抱いた。

 「改善活動に取り組む目的には、現場を鍛えることと、結果を出すことの2つの要素があります。PIM活動は現場を鍛えることを目的としていたのですが、どのような指標を使うかについて私はあまり意識していませんでした。それもあって、各部門が設定する指標は『コストを○%下げる』などと、結果を求めるものに偏っていたのです」

 「結果を追求する指標を掲げれば、プロジェクト期間中には目標を達成しようと現場が頑張って成果を上げてくれます。ところがプロジェクトが終了すると、現場の腰が抜けてしまいがちでした。改善活動に疲れたのですね。現場に結果ばかりを求め、ハッスルを促す指標でPDCA(計画・実行・検証・見直し)サイクルを回す活動の延長線上には、私の目指す組織は無いと考えました」

 関家社長はプロジェクトの結果よりも、現場を鍛えることに重きを置こうと考えた。

「ハッスル指標」では改善が根付かない

 自身が目指す組織の在り方を、野球チームに例えてこう表現する。

 「監督の絶妙な采配に頼ることなく、一流の選手たちが自らの判断で動いて試合に勝つチームです。このようなチームを作るには、試合よりも練習を重視する必要があります。さらに言えば、その練習は監督やコーチの命令でやらされるのではなく、選手たちが自発的に取り組み、能動的にコーチを利用するというスタイルが理想的です。こんなチームができれば、監督は采配にばかり気を使う必要は無く、次の課題に目を向けられるようになります」

 そこで関家社長はPIM活動推進委員会などで、それぞれの現場が設定する指標に注目した。結果重視の指標を「ハッスル指標」と名付け、別の指標を定めるように促してきた。

 では、代わりにどんな指標が望ましいのだろうか。

 「PIM活動に取り組む過程で、一人ひとりに気づきをもたらせる指標です。我々が『メソッドチェンジ』と呼ぶ、従来の業務のやり方を変えるアイデアを生みやすくするためです」

図1●体質化KPIを設定
図1●体質化KPIを設定
[画像のクリックで拡大表示]

 関家社長が評価する指標の一例が「キータッチ万歩計」だ(図1)。パソコンのキー入力回数を自動計測ソフトを通じて日次で集計した数字である。この指標があることで、従来は特に意識していなかったキーボードでの入力作業に「今、なぜキーを叩こうとしているのか」と気づきが生まれる。その疑問からメソッドチェンジを生み出すわけだ。

 「書類を作成する際のミスタイプが多いのであれば、ミスをしないように資料を常に手元に置くようにするなどの工夫を思いつくでしょう。さらに活動のレベルが上がれば、そもそも入力せずに済む方法を検討するようになります。このように気づきを幾つも得て改善を繰り返すと、次第に改善活動が習い性になっていきます」