ヒアリングの場で、ITエンジニアが最初に悩まされるのは、利用部門の担当者の参画意識(やる気)不足だろう。相手に参画意識がないと、意見を収集しようがない。

 化粧品チェーン「THE BODY SHOP」を展開するイオンフォレストの寺島隼人氏(管理本部 IT部 リーダー)も、利用部門の参画意識不足に悩まされたことがある。今年5月に立ち上げた、商品マスターの体系を改善するプロジェクトにおいて、商品部門の協力を取り付けるのに腐心した。

 そのプロジェクトは、経営層の指示で始めた。同社では、いくつかの商品アイテムを組み合わせたセット品の売り上げが伸びている。しかし、従来の商品マスターではセット品が単品アイテムと同じ扱いになっていた。そのため例えば、異なるブランドの商品アイテムを組み合わせたセット品は、どのブランドにも属さない「その他」の分類に入れるしかなかった。さらに、ボディクリームとエッセンシャルオイルといった商品種別の組み合わせをどのように変えるとどれだけ売れるか、という分析が十分にできなかった。

 この問題を重く見た経営層は、データに基づいた販売戦略を強化するため、セット品に対応した商品マスターに切り替えることを、寺島氏らのプロジェクトチームに指示した。

「余計なことはしたくない」

 寺島氏らは、商品部門の協力を取り付けるため、経営層が言うプロジェクトの目的を伝えた。ところが、反応は芳しくなかった。「商品部門では、担当者ごとに独自の方法でセット品の内訳を把握していた。それで在庫をコントロールするという主業務が回っていたので、余計なことはしたくないという雰囲気だった」(寺島氏)。

図1●利用部門の参画意識を高める
図1●利用部門の参画意識を高める
イオンフォレストの寺島隼人氏らが今夏に実施した商品マスターの刷新プロジェクトでは当初、カギとなる商品部門が及び腰だった。しかし利用部門の利点を考えて伝えたところ、参画意識が高まったという
[画像のクリックで拡大表示]

 経営層がデータに基づいて販売戦略を立てるため、という点をこれ以上強調しても、納得して協力してもらうのは難しい。そう判断した寺島氏は、同じプロジェクトチームの八木勇乃輔氏(管理本部 財務経理部 コントロール担当 兼 総合企画室)と話し合い、商品部門にとっての利点を見つけて訴求することにした。

 現行の業務を調べると、商品部門はセット品のために、売り上げデータの複雑な集計作業を強いられていた。その上、集計漏れが少なからず生じていることが分かった。商品マスターの体系を改善すれば、集計作業を大幅に効率化でき、集計漏れもなくせる。寺島氏らが、こうした利点を六つ箇条書きにして商品部門に伝えたところ、「グッと前向きな雰囲気が生まれた」(寺島氏)という(図1)。