カリフォルニアの美しい自然を楽しみながら運動不足を解消しようと、地元のランニングクラブに参加したら、なんとメンバーのほとんどがスマートフォンのアプリケーションを利用して運動のトラッキングをしていた。私も周りに影響されて運動アプリを利用するようになり、それを契機に今では食事の管理など健康アプリをいろいろ試すようになった。このような「モバイルヘルスケア」が今、米国で盛り上がりを見せている。

 2011年12月にメリーランド州ナショナルハーバーで開催された「mHealth Summit」はモバイルヘルスケアに焦点を当てたイベントだ。モバイルヘルスケアと聞いても、あまりピンと来ないかもしれない。一言で言えば、スマートフォンやタブレット端末を使って、医療や健康サポート(運動、高齢者見守りなどを含む)を手軽に受けることができるサービス全般を指す言葉である。今年で3回目を迎えたこのイベントも、来場者数が昨年に比べ50%増えて3000人を超え、この分野への注目は確実に高まっている。

 ヘルスケア関連のモバイルアプリケーション市場規模は、付随するガジェットなどを含めると、2016年には全世界で4億ドルに成長するだろうとの予測がある(ABI Research)。これは2010年の4倍近い規模だ。モバイルヘルスケアはモバイル分野の次の大きなトレンドと見られている。

 さて、このモバイルヘルスケア市場がブレイクすると、私たちの生活に一体どのようなことが起こるのだろうか。カンファレンスに登場したソリューションから描いてみよう。

 基調講演に登壇したEric J.Topol氏(West Health InstituteのVice Chairman)は、医療の現場で医師が使うためのソリューションをデモンストレーションした。スマートフォンのマイクロUSBインタフェースに専用のデバイスを取り付け、そのデバイスを胸に当てると、詳細な心エコーがモニターに表示された。そしてTopol氏は「医学がワイヤレス技術によって、今までのものから一変し、新たな医学へと進化するだろう」と強調した。心電図のほかにも、視力を測定することができるソリューションなどが紹介された。

 検査や診察には、医療施設に設置された専門機器による測定が必要である。それが、コンシューマーが日常的に使用しているモバイルデバイスを活用して実現できるようになるわけだ。この意味は大きい。スマートフォンやタブレットを医療機器として使えれば、離島や郊外などこれまで医療サービスを受けるのが難しかった場所でも検査や診察を受けやすくなる。世界的に見れば、発展途上の国や地域の人々も、医療サービスを容易に受けられるようになるということだ。

 また、モバイルを活用した医療は大型の専門機器を必要としないため、医療機器や医療サービスにかかるコストを抑えることができる。その点で、患者が支払う医療費の低減効果が見込めると期待されている。このことは健康保険料の低減につながる可能性を秘めており、高額な健康保険が社会問題となっている米国では重要なことである。