リーダーとは、どうあるべきか。そして、どのような経験を積めば、優れたリーダーになれるのか。現場でもがき奮闘する若きリーダーやその候補生たちに、経験豊富なリーダーや識者からリーダーとしての心得を聞いた。

宇宙開発は極めてハイリスク

小惑星探査機「はやぶさ」は7年間の宇宙飛行を続け、地球と小惑星イトカワを往復。川口氏はイトカワから微粒子を採取し持ち帰る世界初のプロジェクトを率いた。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授 「はやぶさ」プロジェクトマネージャー
川口 淳一郎氏

 はやぶさのような「宇宙開発」と呼ばれる分野のプロジェクトは、地球上で使われる製品やシステムを作るプロジェクトとは大きく異なる特性がいくつもある。最大の違いは、完成品ではなく、たった一つの試作機を宇宙に打ち上げるしかないということだ。

 数百億円に上るコストをかけて開発した試作機で、世界で初めてのことをやろうとするのだから、失敗のリスクは格段に大きくなる。1995年にはやぶさプロジェクトが政府の審査を受けたときは、総予算が200億円だった。

 一度宇宙に送り出してしまうと、製品回収はできないし、トラブルへの対応も非常に難しい。そこで、打ち上げ前にトラブルを想定して二重三重のバックアップの仕組みを用意するなどの「おぜん立て」をどれだけ徹底できるかが重要になる。

 宇宙開発はハイリスク・ハイリターンなプロジェクトの典型といえる。だが、こういう活動を全くしないで手堅いプロジェクトばかりではアイデアが生まれず、人間の可能性は広がらないし進化もない。世の中を変えるような新たな突破口を開こうと考えるのなら、挑戦は不可欠だ。そこはトップがどう判断するかが問われる。

 はやぶさのプロジェクトは、メンバー全員が「世界初」を目指していたという点でも通常のプロジェクトとは異なる状況だった。このプロジェクトを統括するに当たって最初に手がけたのは、目標となるシナリオを作ることだ。「小惑星に行って、微粒子を採取し地球に戻ってくる」というシナリオを作ることが重要だった。

 明確なシナリオさえ最初にできれば、みなそこに向かう。はやぶさの場合は、イオンエンジンや特殊なカプセル、誘導制御技術など、いくつもの世界初の技術や製品開発をそれぞれで進めて、搭載する必要があった。各担当が進めている任務は、最終的には一つのシナリオに向かうためだという目的の共有が必要だった。

 プロジェクトは始める前が一番大事。事前にしっかり準備しておけば、開始時点でプロジェクトは半分くらい終わっていると考えてもいい。(談)

●手堅いだけで突破口は開けない
●プロジェクトは始める前が大事


正しいことを言ってはいけない

かつて勤めていた会社の上司の命令で、マグロ船に43日間乗っていた齊藤氏。「マグロ船仕事術」などの著作や講演を通じ、マグロ船で学んだ教訓を広めている。

ネクストスタンダード代表 齊藤 正明氏

 自分が乗ったマグロ船は10人超が乗船しており、一人当たりのスペースは単純計算で2メートルもない環境だった。毎日同じ人と仕事や生活をしなければならず、コンビニも病院もない。地上では当たり前のことが全くできない。

 こうなると、ささいなことがストレスになる。だからこそ、マグロ船の船長や乗組員はコミュニケーションの重要性や、仕事を楽しくするための能力に非常にたけている。普段の仕事で生かせる教訓をいくつも教わった。

 その一つは「正しいことを言ってはいけない」ということ。理屈は正しくても、人間は理屈だけでは動かない。

 マグロ船ではみんなで仕事をしながら、「キャバクラ嬢のアケミちゃんをどうしたら口説けるのか」などの話題で盛り上がることがある。そんな話題が自分に振られたとき「その人のことを知らないので、何とも言えない」と答えた。確かに正しい答えだが、周りは一斉に白けてしまった。