いきなり異国での業務改革に挑戦、文化の異なる11社をまとめる、初のPM(プロジェクトマネジャー)で知識不足を痛感──。10年後のIT部門を担う6人の若手リーダーの奮闘ぶりを見ていこう。(文中敬称略)

【パナソニック】
現場の巻き込みを意識、異国での業務改革に挑戦

 日本からの距離は9000km以上、欧州南東に位置するバルカン地域。同地域にあるセルビアやマケドニアなど9カ国の業務改革を主導せよ。小林真美(コーポレート情報システム社グローバル本部主任システムエンジニア)に与えられたのはこんな使命だった。

 パナソニックのIT部門は2009年9月から「EMP(エマージング・マーケット・プロモーション)」と呼ぶ取り組みを進めている。新興国の拠点に若手を送り込み、ITを利用した業務改革を支援するのが狙いだ。セルビアなど9カ国は、市場開拓の重点地域の一つである。

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 EMPプロジェクトに参加する13人の一人に選ばれた小林は、あまりなじみのない地域の担当になり、戸惑いを隠せなかった。「誰も手がけたことがない挑戦をしなければならない。国内でもPMの経験がない自分に務まるのか」。プレッシャーは大きかった。

 「自分に何ができるのか」。自問した小林は「とにかく現場を知るのが大事」と考え、行動に移した。まず始めたのは、バルカン地域の販社を回り、課題をヒアリングすることだった。普段勤務しているドイツの統括会社から1カ月ごとにバルカン地域を訪問し、担当者に直接話を聞いた。

 ヒアリングした結果をどう生かすか。小林は、欧州での業務改革やシステム導入の事例を自分なりに分析。持ち帰った課題と照らし合わせて、バルカン地域に応用できないかを検討した。参考になる事例がない場合は「ゼロから考え直して戦略を練った」。現地の担当者とは、ヒアリングの後もメールやビデオ会議を使ってコミュニケーションを取り続けた。

 こうして小林は業務改革プロジェクトの骨子を固めていった。中心となるのはインフラ部分だ。CRM(顧客関係管理)システムやWebを使った受発注システム、消費者向けEC(電子商取引)システムの構築、コールセンターの立ち上げを決めた。

 プロジェクトは小林や販社の担当者など十数人で構成する。小林以外は現地の人間で、やり取りはすべて英語。小林がPMを務めるのも、同社がバルカン地域で業務改革を実施するのも初めてのことだ。「途中で現場がサジを投げそうになることもあった」と小林は打ち明ける。

 特に苦労したのは、現場のモチベーションをどう維持するかだ。悩んだ末にたどり着いた解は、「販社の担当者が出してくれた意見やアイデアは無視しない」というものだった。少しずつでもいいので、担当者のアイデアを施策に反映していく。それだけでも、現場の士気が徐々に高まっていくことを実感した。約2年のプロジェクトで、消費者向けECシステム以外は無事、稼働にこぎ着けた。

 日本から遠く離れた異国でのPM経験を通じて、「エンドユーザーの目線で、業務改革やシステム構築を進める力が付いてきた」と自己分析する。今後の課題は、「自分の経験を、後輩にどう伝えていくか」だという。

 自分の成長を目指すだけでなく、自分が学んだことや気付きを、同僚や下の世代に伝える。「そのための技術を身に付けていきたい」と小林は話す。

【リコー】
コスト3割削減に、異部門での経験生かす

 「ITコストを3割削減したい。そのプロジェクトのPMを担当してくれないか」。吉崎裕朗(IT/S本部 IT/S企画センター 戦略室シニアスペシャリスト)が依頼を受けたのは2009年。古巣のIT部門に戻った矢先の出来事だった。

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 IT部門出身の吉崎が経営企画部門に異動したのは2007年のことだ。IT部門にいた頃と比べ、経営に関連した指標や市場環境などに対する意識が大きく変わったという。「2年半、IT部門とは全く異なる文化の中で鍛えられたのは大きな経験」と吉崎は話す。

 「挑戦的な数字だ」。2007年度比でITコストを3割削減するプロジェクトを率いる立場になり、吉崎は目標の高さに足がすくんだ。メンバーをどのように引っ張れば目標を達成できるのか。