2011年7月にNEC レノボ・ジャパン グループが発足し、NECとIBMのPC事業がレノボ傘下で統一された。IBM-PCとNECの9801シリーズのデッドヒートを目の当たりにした世代としては感慨深いものがある。

 著者はIBM大和研究所でThinkPadの開発責任者を務め、現在はレノボ・ジャパンの副社長。文字通りThinkPadの生みの親だ。開発秘話は強烈だ。夜中に同僚とタクシーで帰宅する途中、事故に遭いかけた時「どうせならぶつかればよかった。そうすれば病院で寝られたのに」と言い合うような生活が続いたという。PC事業撤退を決めた内情についても、貴重な証言が読める。

 だが著者は、懐古談を目的に執筆したわけではない。「世間は頑張ることを格好悪いとさえ思うようになりました」「日本はいろいろなところで負けています。薄型テレビも、デジカメも、携帯電話も、PCもそうです。自動車の地位だって危ない」という危機感だ。

 これは決して誇張ではないと思う。日本製品が新しい市場を切り開くことがなくなって久しい。新製品を開拓するためには旧製品を捨てねばならない。だが今の日本では既得権が絶対化している。世界中で死に物狂いのイノベーション競争が続いている中で、日本だけは「競争は嫌だ。新しいことは嫌だ。何も変えたくない」という鎖国志向が蔓延しているようにみえる。

 NEC レノボ・ジャパン グループも成功が保証されているわけではないが、日本企業が停滞を打破して生き残るための戦略の一つは、海外からの新しい血の導入にある。それは日産自動車の例でも明らかだ。

 著者は「出身母国が完全に親方で、他の国は市場にすぎないとしたら、それは国際化であってもグローバル企業ではない」という。レノボ・ジャパンのある日本人シニア・マネージャーの上司はオーストラリア人、その上司はパリ在住のオランダ人、究極の上司が米国で執務する中国人CEO(最高経営責任者)だ。グローバル企業を知るうえでも読む価値がある。

評者:滑川 海彦
千葉県生まれ。東京大学法学部卒業後、東京都庁勤務を経てIT評論家、翻訳者。TechCrunch 日本版(http://jp.techcrunch.com/)を翻訳中。
ThinkPadはこうして生まれた

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