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 前回は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)市場の追い風となる要素のうち、モチベーションに関して述べた。今回は、残りの「プレイヤーの増大」「助成金や特典」「日々の生活での使用」について述べる。

・モチベーション
・プレイヤーの増大
・助成金や特典
・日々の生活での使用

プレイヤーの拡大

 そもそも米国では、商品としてどのくらいのEV(BEV:Battery Electric Vehicle)とPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)が市場に出回っているのだろう(BEVとPHEVについてはこちらの記事を参照)。日本だとBEVに限れば日産自動車のリーフと三菱自動車のミーブといったところだろう。もちろんこれからはホンダやトヨタ自動車などもBEVを投入してくるに違いないが。

 米国では、既に多くのEVやPHEVが発売されている。米国でメディアによく取り上げられて一般に広く知られているのは、高級車に特化しているTesla MotorsのTesla、一般用と位置付けられる日産自動車のリーフとChevrolet/GM(Chevroletはブランド名、GMは会社名)のVoltを挙げることができる。

 HEV(Hybrid Electric Vehicle)であるトヨタのプリウスはまだプラグイン版の販売が行われていないためか、EVという扱いはされていない。シリコンバレーを走っていると多くのプリウスを見かける。もうあまり新しくなくなったということで、普通の自動車として扱われているというところだろうか。

 自動車メーカー各社は全米で試乗会を開催して、EVに対する啓蒙を図っている。写真1は筆者が参加したリーフの試乗会の様子だ。実際の試乗は10分程度だが、人気は上々であまりに希望者が多いので予約制になっている。会場はサンノゼのダウンタウンにあるAdobe本社近くの駐車場で、分刻みでやって来る人々でごった返していた。

 筆者はガソリン車からHEVのプリウスに乗り換えた時程の衝撃は受けなかった。2ブロック程度を低速運転しただけでは正直なところHEVとの違いはあまり分からない。ただ、プリウスの場合はガソリンエンジンと電気エンジンが協力して走行するので、できるだけガソリンエンジンを使用しないような走り方(プリウス効果)に自然となっていたが、リーフではそれを気にせずに走れるのが快適だった。

写真1●Adobe本社に近いサンノゼ・ダウンタウンでの日産リーフ試乗会の様子
写真1●Adobe本社に近いサンノゼ・ダウンタウンでの日産リーフ試乗会の様子

 大手以外にも様々な自動車メーカーがBEVまたはPHEVを発売または発表している。表1は、最近のカンファレンスでPG&E社によって発表された資料をもとに作成したEVのリストである(PG&E社はカリフォルニア州にある三大電力・ガス会社の一つで、主に北部から中部カリフォルニアにかけて550万世帯に電力を提供している。サンフランシスコやシリコンバレーは同社の電力サービスを受けている)。

表1●各自動車メーカーによって発売中と発表されたBEVまたはPHEVのリスト
数字は発売または発表された年を示す。左がモデル名で( )はメーカーを表す。緑がBEVで黄色はPHEV。ここで抜けているのは、ホンダFit EVだが、これは2012年はリースのみ扱う。出典:PG&E社のプレゼンテーションをもとに筆者が再現
Model S(Tesla)
City(Think)Idea(Bright Automotive)
SMERA(Lumeneo)ActiveE(BMW)Smart ED(Smart)
E6(BYD)Coda Sedan(Coda)Micro Vette(Fiat)
Leaf(日産自動車)iOn(Peugeot)Twin Drive(Volkswagen)
i-MiEV(三菱自動車)Focus(Ford)V70(Volvo)
Stella(Subaru)Karma (Fisker)ZE(Renault)Escape(Ford)
Roadster(Tesla)Blue Zero(Benz)Ampera(Opel)Blue-Will & i10(Hyundai)
F3DF(BYD)Volt(Chevrolet/GM)A1(Audi)Plug-in Prius(トヨタ自動車)
2009年2010年2011年2012年

 たくさんの自動車メーカーが市場に参入しているからといって、市場が立ち上がっているとは断言できないが、自動車市場を専門に追跡しているプロの多くが電気自動車に乗り遅れまいとして参入している事実は重い。また、様々な選択があることで、競争が激化してEVがさらに進化し、価格も下がっていくと期待される。

 オバマ大統領は2011年の年次教書で、2015年には100万台のEVが米国各地を走っていることを目標に掲げた。北カリフォルニアで電力を供給するPG&E社は、実際に購入されて使用されるEVによって電力需要がどのように変化するのかについて、非常に興味を示している。最近のカンファレンスで、PG&E社はEVの実働車数を「最低」「中間」「最高」に分けて予想している。それによれば、2015年には最低で5万5000台、中間で12万5000台、最高で19万台のEVが走るという。2020年には最高で85万台に達すると予想している。新たな電力需要の出現で供給を増加させる必要があるのか、電力供給状況を考慮したスマート充電で解決できるのか興味のあるところだ。