IFRS(国際会計基準)の適用は当初の見込みよりも2年以上延びる公算が大きい。この2年の余裕をどう捉えるべきか。IFRSへの取り組みを法制度対応に限定せず、中長期的に経営課題を解決するための活動に結び付ける姿勢が大切になる。その際に情報システム部門が果たす役割は大きい。

 IFRS(国際会計基準)の適用時期はいまだに明確でない。その中で、どのように対応を進めるべきか。2012年、日本企業は改めてこの課題に向き合う必要がある。

 中でも焦点となるのは、「2年の余裕をどう生かすか」だ。11年6月末の自見庄三郎金融担当大臣による適用見直し発言により、最短で15年3月期とみられていたIFRSの強制適用は、早くても17年3月期以降になった。企業にとって、準備期間が2年以上延びたことになる。

 「適用時期が延びたのはむしろ好都合。法制度対応のみを目的とするのでなく、経営課題の解決を目的とした中長期的な取り組みを進める余裕が生まれるからだ」。ビジネスブレイン太田昭和 会計システム研究所の中澤進所長は、こう指摘する。

 親会社や子会社、関連会社など連結グループ全体のガバナンス(企業統治)体制の強化や、決算早期化などが中長期的な課題の代表例だ。「いずれも日本企業が認識しているにもかかわらず、これまで着手できなかった。IFRSへの対応を、これらの課題に取り組むチャンスとみなす必要がある」と中澤所長は強調する。

現場からシステムの見直しを

図1●12年以降、IFRS対応を念頭に置きシステム部門が取り組むべき主な項目
図1●12年以降、IFRS対応を念頭に置きシステム部門が取り組むべき主な項目
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 中長期的な経営課題を解決するにあたり、システム部門が果たす役割は大きい。IFRSが求める要件の実現に加え、経営課題の解決に向けて、システムをどのように構築・修整するのか。こうした観点で、中長期的なIT戦略を考えていく必要がある(図1)。

 中澤所長は「グループ会社を含めた現場から、会計データを正確に取得できる仕組みを持つ企業はほとんどない」と指摘する。子会社や本社の経理部門がデータを修正または調整しているケースが多いのが実態だ。正確なデータとは、「売り上げ」であれば「出荷完了から1日後の単品単位」などと同じルールに基づき、同じタイミングで入力されたデータを指す。

図2●IFRS対応を見据えて目指すべきシステム像
図2●IFRS対応を見据えて目指すべきシステム像
現場から正しいデータを収集できる仕組みを用意しておくことが望ましい
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 しかし、グループ全体のガバナンス体制強化や決算早期化を実現するには、経理部門がデータを修正・調整している状態は好ましくない。この問題を解決するには、「IFRSが求める会計基準に基づいた勘定科目や業務プロセスを実装した基幹系をグループで統一するといった方法が有効だ」と中澤所長は話す。業務処理の効率化を目指したシェアードサービスの推進といった対策も、選択肢として考える必要がある(図2)。

 現場が入力した会計データが信頼性の高いものになれば、開示書類を効率良く作成できるようになる。経営管理に必要なデータをいち早く取得できるので、経営管理の強化にもつながる。