金融庁は2011年6月以降、企業会計審議会でIFRS(国際会計基準)強制適用の見直し議論を進めている。連結財務諸表のみを適用対象とし、単体(個別)財務諸表を対象から切り離す「連単分離」の考え方を採る可能性が高い。

単体財務諸表の行方が焦点

 企業会計審議会総会と下部組織である企画調整部会の合同会議の再開後第3回と第4回()で目立ったのが、「我が国の会計基準・開示制度全体のあり方」の一つとして課題に挙がっているIFRSの適用対象について、「連単分離」を推す意見が多かったことだ。

図●IFRSの強制適用見直しの議論の経緯
図●IFRSの強制適用見直しの議論の経緯
企業会計審議会総会・企画調整部会の合同会議を4回開催している
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 なぜ連結と単体の分離にこだわるのか。製造業を中心に、「単体にまでIFRSが適用になると、日本企業への影響がより大きくなる」との懸念を表明する委員がいるからだ。

 金商法の財務諸表は投資家に対する情報開示を主な目的としている。ただし、単体は税法や会社法と結びついており、税や株主配当などの計算にも使われている。

 これまで金融庁は、IFRSの強制適用に関して「連結先行」の考え方を示していた。連結へのIFRS適用をまず検討し、その後に単体の取り扱いを考えるというもので、適用対象として単体を除外してはいない。委員からは、この点を問題視する声が出ていた。

 第4回会議で、企画調整部会の臨時委員を務めるトヨタ自動車取締役・専務役員の伊地知隆彦氏は、「単体財務諸表に対する税法の影響を考えざるを得ない連結先行の考え方をキャンセルして、連単分離を打ち出すタイミングではないか」と主張した。

 第3回会議では、審議会委員を務める住友商事特別顧問の島崎憲明氏が「連結と単体を分けないと議論が深まらない」として、「IFRSによる開示が求められるのは連結財務諸表であり、連結に議論を絞るべき」と話した。

企業負担が重くなる

 連単分離は現実的な選択肢といえる。単体への影響を懸念する必要が無くなることで、連結を対象としたIFRS適用に関する議論のペースが上がる可能性が出てくるからだ。

 ただし、問題点は多く残る。最大の問題は、IFRSの適用対象となる企業の負担増だ。連単分離を実現する場合、連結はIFRS、単体は日本の会計基準と、複数の会計基準に基づいて財務諸表を作成する必要が出てくる。両基準を理解できる経理担当者の教育や、異なる会計基準に基づいた財務諸表を作成できる情報システムの整備が欠かせない。

 審議会委員を務める公認会計士の泉本小夜子氏が、第3回会議で「連結と単体が分かれると、監査の時間とコストがかかる点を考慮すべき」と話すなど、負担増を懸念する声も実際に上がっていた。

 連結に関しても「強制適用するか、任意(早期)適用の拡張でよいか」「上場企業すべてが対象か、対象を絞るか」「一気に適用か、段階的に適用か」などの方針を決める必要がある。着地点が見えてきたとはいえ、IFRS適用の方針に結論が出るのは当分先になりそうだ。