ITU(国際通信連合)の電気通信標準化部門であるITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)は、2009年12月に策定したIPTV用のインターラクティブコンテンツ制作のためのフレームワーク「ITU-T勧告H.761 Ginga-NCL」と「ITU-T勧告H.762 LIME」を活用した第1回IPTV Application Challengeを開催した。NHKエンタープライズは、このコンテストで「ITU-T勧告H.762 LIME」を利用したVODコンテンツを応募、2011年10月25日に法人部門の最優秀賞を受賞した。今回は、この「ITU-T勧告H.762 LIME」の概要とNHKエンタープライズが制作したVODコンテンツから見る「ITU-T勧告H.762 LIME」を使った放送・通信連携サービスについて解説する。

図1●ITU-T H.76xシリーズ「Multimedia Application Framework」
図1●ITU-T H.76xシリーズ「Multimedia Application Framework」
出展:ITU-T勧告H.760、H.761、H.762を参考に著者が作成
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 ITU-Tの「マルチメディア符号化、システム&アプリケーション」に関するITU-T勧告を策定する研究委員会「SG16(SG:Study Group)」は、IPTV用双方向マルチメディアコンテンツのためのツール群であるITU-T勧告H.76xシリーズ「マルチメディアアプリケーションフレームワーク「Multimedia Application Framework(MAFR))」を策定している。

 このH.76xシリーズには、データ放送用コンテンツ記述言語「ITU-T勧告H.761 Nested context language (NCL) and Ginga-NCL for IPTV service(H.761 Ginga-NCL for IPTV)」、IPTVサービスのための軽量インタラクティブマルチメディアフレームワーク「ITU-T勧告H.762 Lightweight interactive multimedia environment(LIME)for IPTV services(H.762 LIME)」、IPTV用CSS規格の「ITU-T H.763.1 Cascading Style Sheet for IPTV (H.763.1 CSS for IPTV)」などから構成されている(図1)。

 H.761 Ginga-NCL for IPTVは、日本の地上デジタル放送方式(ISDB-T)を採用したブラジルや南米地域の放送規格「SBTVD-T(Sistema Brasileiro de Televiso Digital)」のデータ放送用コンテンツ記述言語「Ginga-NCL」を基にする。H.762 LIMEは日本のデジタル放送用コンテンツ記述言語「BML(Broadcast Markup Language)」のIPTV版としてIPTVフォーラムが策定した「IPTV版BML」が基になっている。また、NTTサイバーソリューション研究所主任研究員でITU-T IPTV-GSI TSRコーディネーターの川森雅仁氏によると、欧州の放送に関する標準化団体であるDVB(Digital Video Broadcasting Project)においても「LIME over DVB」を考慮することが計画されているという。

「H.762 LIME」仕様概要

 H.762 LIMEは、IPTVフォーラムが策定したIPTV用BMLを基に、海外でも利用できるように、さらに日本のデジタル放送に関連する機能を削除したとてもシンプルなライトウェイト版BMLのプロファイル仕様としてまとめられている。

 具体的には、W3CのXHTML 1.0を基に一部拡張した「LIME-HTML」プロファイル、スタイルシート規格のCSS1/CSS2を基にした「LIME-CSS」プロファイル、ドキュメントオブジェクトモデル(DOM)の「LIME-DOM」プロファイル、IPTVサービス用に拡張した「ECMAScript」のサブセットであるスクリプト言語の「LIME-Script」プロファイルが記載されている。

 なお、LIME-CSSは「H.763.1(CSS for IPTV)」として勧告化されており、LIME-HTMLは「H.IPTV-MARF.13」として、LIME-DOMは「H.IPTV-MARF.5」として、およびLIME-Scriptは「H.IPTV-MARF.6(ECMAscript for IPTV)」として、現在SG16にて策定中である。

表1●LIME-HTML  拡張要素(LIME module)
表1●LIME-HTML 拡張要素(LIME module)
出展: ITU-T Recommendation H.762(2011/5) Table 7-1 HTML attributes used in LIME-HTML documentより
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(1)LIME-HTMLプロファイル
 「LIME-HTML」プロファイルでは、LIMEで利用するCSSやECMAscriptなどを含むXHTML文章のプロファイルを規定している。その中でも特長としてあげられるのが、インターラクティブなサービス実現するために、XHTML 1.0の拡張として規定した"bml"要素、"bevent"要素、"beitem"要素、"body&"要素、"div&"要素、"p&"要素、"span&"要素、"object"要素の7つの要素であり、「LIME-HTML」プロファイルにこの7つの要素が「LIME modules」として規定されている。これらの要素は、例えば、<head>要素内に配置される"bevent"要素の属性typeに"DataButtonPressed"を指定することで、リモコンの"d"ボタンの押下による割り込み事象の判断することができる。また、"beitem"要素は、映像に同期してテキストや絵などのコンテンツの表示を切り替えるための割り込み事象に使われる(表1)。

表2●ブラウザ疑似オブジェクトの8つの要素
表2●ブラウザ疑似オブジェクトの8つの要素
出展: ITU-T Recommendation H.762(2011/5) Table 9-2 Browser pseudo-object of LIME-Script、およびARIB TR-B24 第二編 を参考に著者が作成
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(2)LIME-Scriptプロファイル
 LIME-Scriptプロファイルは、ECMAscriptのサブセットを規定している。中でも特長としてあげられるのが、ECMAscriptのサブセットとして規定したECMAScriptの組み込みオブジェクトである「global」「Object」「Function」「Array」「String」「Boolean」「Number」「Date」の8種類のオブジェクトであり、LIME-Scriptプロファイルに規定されている。また、ECMAScriptの拡張版ブラウザ疑似オブジェクトとして8つの要素(EPG、双方向(TCP/IP)、動作制御機能、受信機音声制御、タイマー機能、外字機能、字幕制御、その他の機能)がLIME用ブラウザ疑似オブジェクトとして規定されている(表2)。

(3)LIME-CSSプロファイル
 LIME-CSSプロファイルは、スタイルシートのCSS1とCSS2の要素に加えて、固定受信機用にCSS2の特性を拡張している。なお、拡張したCSS2特性を制御するDOMインタフェースはLIME-DOMプロファイルとして規定されている。

表3●LIME CSS2 Propertieインタフェース/LIME拡張
表3●LIME CSS2 Propertieインタフェース/LIME拡張
出展: ITU-T Recommendation H.762(2011/5) Table 10-9 - Profile of LIMECSS2Properties interfaceより
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(4)LIME-DOMプロファイル
 LIME-DOMプロファイルは、LIME-HTMLの要素やCSSが操作するDOMインタフェースを規定している。LIME-HTMLは、XHTML1.0に基づいているため、HTML DOMインタフェースを操作することができる。しかし、CSSを制御するHTML DOMの要素が定義されていない。そこでこのプロファイルでは、インデックスカラーを指定する「borderTopColorIndex」や「borderBottomColorIndex」などの属性、解像度を指定する「Resolution」属性、リモコンの上下操作の「navUp」や「navDown」、赤/青/黄/緑の4色ボタン、IPTVのVODコンテンツの再生どの操作用の「usedKeyList」などを「LIME CSS2 Propertieインタフェース/LIME拡張」として規定した(表3)。