2012年も放送・通信の分野は話題が満載である。年明け早々には、900MHz帯の周波数割り当てに向けた申請が締め切られる。また、東経110度CS放送の事業者認定が行われる。事業参入のワクを確保できるかどうかは事業計画を練る上での大前提であり、年始早々の大きなイベントになることは間違いない。

 放送の分野では、新規BSの第2弾の開局が2012年3月、V-Highマルチメディア放送の「NOTTV」が2012年4月に開局する。地上デジタル放送では、2012年7月までにB-CASカードが不要の新しいCASが7月に関東地方を皮切りにスタートし、その後全国展開される。

 無線通信の分野では、LTEで先行するNTTドコモに対し、KDDIは2012年末にサービスを開始し、ロケットスタートサービスを目指す。ワイヤレスブロードバンドの関連では、2.5GHz帯BWAでモバHO!跡地も含めた議論が総務省の中で展開されており、本誌はここも注目する予定である。

 有線の分野に目を向けると、FTTHの分野では8分岐の議論は続く見込みで、ソフトバンクBBとソフトバンクテレコムがNTT東西を相手に、東京地方裁判所に訴訟を起こした裁判の行方を含めて大きな話題になるだろう。その一方で、通信キャリア、電力系キャリア、ケーブルテレビという三つどもえの競争がどう進展していくのかも興味深い。各社は無線LAN、タブレットなどにも戦略的に取り組むとみられ、続々と新サービスや新端末が投入されるだろう。ケーブルテレビの分野では、次世代STB(セットトップ・ボックス)の導入が見込まれており、業界としてこの新しい端末をどう生かしていくのかが課題だ。

多くの人に情報が届かなかった

 こうした様々な動きが展開されると見込まれる中で、日経ニューメディアは「防災」を一つのキーワードにして、2012年も通信・放送業界を追いかけていきたいと考えている。

 東日本大震災では、多くの地域で停電となり、まず据置型で設置されているテレビが使えなくなった。その中で、防災行政無線やラジオ、携帯電話で情報を入手して多くの人は避難した。しかし、設備の能力や不具合など様々な理由から情報が届かず、津波に襲われた人も数多くいたようだ(関連記事:東日本大震災の教訓とV-Lowデジタル・コミュニティ放送への期待とは)。災害発生時に、老若男女を問わずすべての人に必要な情報が届く仕組みをどう作っていくのかは、通信・放送の制度化・事業化・技術開発に関わるすべての人が取り組むべきテーマだろう。

 震災のあと、通信・放送関連の多くのイベントで、震災時の様子が報告され、対応が話し合われた。2012年以降は、この経験を通信・放送関連の政策や事業にどう生かすのかが課題になる。

V-Lowの実証実験がスタート、キーワードは防災

 震災時の対応として重要なことの一つに、防災行政無線の補助手段をどう整備するか、が挙げられる。候補として名乗りを挙げようとしているのが、V-Lowマルチメディア放送である。

 同放送は、18MHz幅の帯域を県域(関東/近畿/中京は広域圏)に割り振る。現在、制度化に向けた準備が進められているが、大震災を機に「防災」を非常に重要なキーワードとして設定し、改めて制度化などを仕切り直しする動きとなっている。

 総務省が2011年8月~9月に行ったヒアリングにおいて、例えばFM東京らマルチメディア放送グループは、「災害時に強い、放送型の緊急時情報配信インフラへの要望に配慮し、デジタル新型のコミュニティ放送サービスを、放送制度開始当初からスタートすべき」とし、デジタル新型コミュニティ放送における課題を抽出・整理しておくためにも先行実験が必要と述べた(関連資料1)。ニッポン放送も、V-Lowマルチメディア放送全体の「地域防災等へのより一層の寄与」を図るための本放送を前にした「実証実験」実施が必要ではないかとした(関連資料2)。コミュニティ放送事業者の関係者からも、防災に向けたデジタル型コミュニティの必要性や、実験を行うという意向が示された(関連資料3)。