2012年、Linuxとオープンソースソフトウエア(OSS)の動向として最も注目すべきは、“サービスの基盤”としてもっと活用されていく点だ。

 その先例が米Amazon.comが提供開始した「Kindle Fire」。米国で199ドルで販売されているAndroidタブレッドだが、価格の割にスペックが高い。画面に対して斜めからみても色が変わりにくいIPS液晶パネルやラバーコーディングされたボディなど格安Androidタブレットとは一味違う。

 この価格は原価程度の値付けとみられている。単なるタブレットではなく、Amazon.comが電子書籍を提供するサービス用の端末として提供しているから実現できるわけだ。価格が安い上、一般のAndroidタブレットとしても利用できるため、月間100万台のペースで爆発的にシェアを伸ばしている。

車載用サービスのプラットフォームに

 2012年には、このようなサービスが新たに登場するだろう。例えばトヨタ自動車は、次世代車載システムを開発中で、そのコンセプトを示した動画を公開している。サーバーを置くセンターから天候や渋滞情報を端末に送信し、端末側では車の空調を制御したり目的地への到着時刻を示す。また、音声認識技術を使って買い物やレストラン予約を運転しながらリクエストしたり、電子メールを読み上げたりといったコミュニケーションツールとしての利用も想定している。

 こうしたサービスの基盤としては、LinuxやOSSが中心となる。Kindle Fireが搭載するAndroidはLinuxの一種であり、トヨタ自動車の次世代車載システムにもLinuxやOSSが採用される見込みである。LinuxやOSSが利用される理由は、OSやシステム全体を含めて、開発で他社との協業がしやすく、コストを抑えられるからだ。次世代車載システムの開発責任者である村田賢一氏も「こうした分野のシステムを1社で構築するのは難しい。オープンイノベーションとして各社が協業して作っていく必要がある」と述べる。

 端末としては、Androidタブレットに続き、デジタルサイネージや家庭用ロボットなど、まだ広がりがある。サービスのアイデア次第で思わぬものが登場する予感がする。

企業ではデスクトップ利用が増える

 企業に目を移すと、Linuxの利用は、徐々にではあるが、確実に広まっている。IDC Japanの2011年6月発表の調査結果によると、Linuxの売上高シェアは2010年実績でUNIXを抜き、2012年にはメインフレームを抜くと予想されている。顕著な動きは、金融システムでのLinuxの利用だ。東京証券取引所を皮切りに、大和ネクスト銀行が勘定系にLinuxを利用、三菱東京UFJ銀行はメインフレーム上のサービス指向アーキテクチャー(SOA)基盤にLinuxを利用した。

 もう一つ、企業の動向として注目したいのは、デスクトップにLinuxやOSSを採用する動きだ。すでに大阪府の交野市役所や箕面市の小中学校などではLinuxが利用されているが、昨年末、JA福岡市がオープンソースのオフィスソフト「LibreOffice」を採用。約400台のパソコンのうち7割に導入する。一般的にまだWindows XPパソコンが大半を占める企業が多く、その移行や運用のコストが課題となっている。LinuxをはじめとするOSSが安定性を増してきたなか、アシストのように、サポートサービスを展開するベンダーも出てきた。デスクトップにLinuxを利用する動きは、今年は民間企業にも広まるとみられる。

Linuxは情報システムの枠を越える

 Linux自体に目を向けると、クラウド、タブレット、車載システムといった新たな領域に向けて発展していく。将来的には、トヨタ自動車のデモのように、これらが連携してシステムが登場してくるとみられる。

 企業向けLinuxとして最も利用されている「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」は、仮想化ソフトをはじめクラウド基盤用のOSとしての強化が進んでいる。例えば、昨年12月に登場した最新版の6.2では、複数のユーザーが1台のホストマシンに同居するマルチテナント向けに、特定のアプリケーションや仮想マシンに割り当てるCPU時間の最大値を設定できるように改良した。これにより、サービスの優先度を設定できる。「Ubuntu」も最新版では、いま注目のクラウド基盤ソフト「OpenStack」を標準で使えるなど、クラウド対応に積極的だ。Linuxのオープンソースクラウド環境が「VMware」に急速にキャッチアップしていくだろう。

 いまタブレットが、スマートフォンとノートPCの間に大きな領域を占めるようになってきた。Kindle Fireだけでなく、中国製の超低価格タブレットも個人用途なら意外と使える。タブレット用OSとしては現状、iOSとAndroidが二強となっているが、新たなOSの登場も期待される。The Linux Foudationが主体となっている「Tizen」プロジェクトは、スマートフォン、タブレット、車載システムなど向けのOSを開発。2012年第2四半期に提供開始するという。Ubuntuもタブレット用の開発が表明されており、今後、各種Linuxがタブレットで動作することが期待される。

 車載システムでも期待されているのが、Tizenだ。トヨタ自動車やデンソーが、The Linux Foundationのメンバーに加わっている。独BMW Groupや米General Motors(GM)などの自動車メーカーや米IntelなどITベンダーが次世代車載システムを共同開発するコンソーシアム「GENIVI Alliance」でも、Tizenが採用されると見られている。