ソフトウエア開発者の年収はITエンジニアの中で最低であり、平均32.6歳で416万円である――。これは、日経コンピュータが2011年11月10日号の「Close Up」コラムで紹介した3万人のITエンジニアに対する調査結果である。

 同じ11月、グリーがプログラマーなど新卒社員の給与を最大1500万円とすると発表したことがネットなどで話題になった。ライバル会社のDeNAも最大1000万円と発表しており、DeNAとグリーの間でプログラマーの獲得競争が過熱している。グリーが求めているのは、単にヒット作を連発するゲームプログラマーではなく、総合的に高い技術力を持ったエンジニア・開発者である。それには、SDKやプラットフォームの開発者も含まれており、基盤システムの開発という意味で、必要なスキルは既存のITエンジニアと大きく差は無いはずである。今年書いたコードは去年より「イケてる」――。グリーの開発者にとってコードは自身の実力を示す大事な作品でもある。

 同じソフトウエア開発者でも、このように大きな「ギャップ」が発生し始めている。国内ITビジネスが構造的に大きな転換期を迎える中で、こうしたギャップや二極化とも考える現象が今年から顕在化する可能性がある。そこで、「ギャップ」というキーワードで、企業のソフトウエア開発シーンを展望してみた。

戦略的にコアな領域のIT活用は、IT部門が主導しにくい

 プログラミングやソフト開発の話をする以前に、まず企業ITにとって2012年はどういう年なのか、はっきりさせておこう。2012年、企業はITで何をしたいか、である。

 今企業ITに押し寄せているのは、スマートフォンおよびタブレットの波である。社内に導入し、業務改善に役立てている企業も増えている。しかし果たして、それがスマホの本来の活用法なのだろうか。スマホやタブレットを導入したという先進企業でも、メールやスケジュールの確認といった用途が多いようである。要するに、パソコンの代わりに使っているだけである。外出先でも利用できるため、便利で業務効率アップにもなる、というわけだ。

 正直、これがスマホの本質的な使い方とは思えない。ましてや、アプリ開発を含めた新システムの開発というにはまだ遠いのが現状だ。IDC Japanによると、「IT部門によるスマホ向けアプリ開発はあまり増えていない。成長性は感じるほどではない」(IDC Japan ソフトウエア&セキュリティ ソフトウエア シニアマーケットアナリストの冨永裕子氏)という。その一方で、「IT部門ではないところからスマホアプリを作って活用したいという声が増えている」という。

 企業が今、IT投資したい対象は、その企業の戦略的な部分、コアな部分をより強化するところである。業務効率アップでもコスト削減でもなく、新規ビジネスの立ち上げでもない。「例えば、製造業なら、既存の製品を磨くために活用する。売り上げ増につながるところ、研究に近いところ、顧客とつながるところ」(ガートナー ジャパン リサーチ部門の足立祐子氏)などだ。それらを実現するのが、スマホ/タブレットなどの新しい端末、ビッグデータなどの新技術である。

 スマホのポイントは、社員が活用するのではなく、顧客が使うコンピュータであること。これまでは「導入」のフェーズだったが、これからは「開発」のフェーズになる。ほとんどの顧客がスマホを持つようになれば、その人のリアルタイムの状況を収集し、ビッグデータ技術と組み合わせれることで、もっと魅力的な製品開発につなげられる。アジア市場など新市場の拡大やグローバル展開などにも効果的だろう。その企業の本業の魅力、競争力を高めるわけだ。

 ここに、2番目のギャップがある。経営・企画部門側と、IT部門との間のギャップである。ITの活用が、戦略的にコアな部分に入るほど、IT部門では主導しにくい。ITベンダーも同じだ。「残念なことに、今のIT部門やITベンダーでは追いつけないのです。例えば、製造業であれば、モノを企画している部署が主体となってITベンダーを誘って、プロジェクトにして、お金を出し合って開発するという形にせざるを得ない」(足立氏)。既存のIT部門は思ったほどスマホアプリ開発に関心が無く、むしろ非IT部門が関心を寄せているという。従来のIT技術と違って、スマホはIT部門ではない人にとっても利用シーンをイメージしやすいからという理由もあるだろう。