IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(編集:日経情報ストラテジー

異業種交流の忘年会にて
ダメな“システム屋”の会話 “システム屋”=佐藤 「2011年はどんな年でしたか?」
製造A氏 「リーマン・ショックから立ち直ろうとしたところへ東日本大震災があり、欧州危機に円高、タイの洪水と、本当に大変な1年でした」
金融B氏 「改めて自分の会社や自分自身を見直すべき転機なのかな。金融機関もグローバルな競争に特化するべきところと、地域での存在感を強化するべきところの区別をもっと明確にしなければ、と思いました。TPP(環太平洋経済連携協定)も1つのきっかけですね」
医療関連C氏 「TPPと言えば農業と医療従事者は反対だと思われているかもしれませんが、実は医療関係では賛成と反対が半々なんですよ」
“システム屋” 「それは知りませんでした。マスコミは極端な姿を報道しがちですから、医師の賛成派がそんなに多いとは知りませんでした」
製造 「まあ、報道の問題もあるかもしれませんが、賛成派はどの分野でも表に出たがらないものですよ。恨まれそうですし」
金融 「医療の世界でTPP賛成派が半分もいるのはどうしてですか。医師や医療機関にももっと競争があってよい、という意見が内部にあるということですか?」
医療 「端的に言えば、その通りです」
金融 「それは勇気づけられます。金融業は農業や医療よりも先に自由化が進みました。実は、我々金融機関の中でも、『昔のように競争が少なければよいのに』といったノスタルジアが少なからずあります」
製造 「競争はつらいけれど、競争が無ければ成長は止まりますからね。IT企業や“システム屋”個人だって、競争激化で退場を宣告されることもあるんじゃないですか?」
“システム屋” 「その通りです。IT業界は制度的に競争が制限されていたわけではありません。でも、比較的新しい産業であるために旺盛な需要に恵まれてきましたし、固定客との密な関係を築くことで、競争しなくて済んだ時期が、昔はあったと思います」
医療 「そこなんですよ、競争が厳しくなってくると『競争回避をしようとする人』たちと『競争の中で生き延びようとする人』たちに分かれるんですよね」
製造 「最後の最後まで競争回避の姿勢というわけにはいきませんよね」
“システム屋” 「どんな競争にどんな方法で勝とうとするかという戦略・戦術は、個性にもつながります」
金融 「“システム屋”個人も、個性がなければ魅力がなく、生き延びることが難しい時代だと思います。これは我々銀行マンでも、どこの分野でも同じでしょうね」

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“競争”しないまま平穏に過ごすのが目標?

 2010年9月から毎週月曜日に掲載してきたこの連載『ダメな“システム屋”で終わりますか?』も、最終回を迎えました。

 第1回で「ダメな行動様式に染まる前に考えるべきこと」を指摘したうえで、全66回にわたって、多くの「ダメな“システム屋”」のパターンを紹介してきました。私の30年以上の“システム屋”歴の中で見聞きしてきた“システム屋”のうち、基本ができていないような「最低な“システム屋”」ではなく、本人は「そこそこだ」と思っているようなタイプをあえて登場させて、その限界を書いてきたつもりです。

 「“保守本流”な人々」(第12回)「名ばかりコンサルタント」(第21回)などで紹介した人たちは、30歳代や40歳代の時は、周囲に「仕事ができる人」という印象さえ与えていたかもしれません。「打たれるともろい“満点王子”」(第18回)「黙らせる優秀さ」(第27回)で紹介したタイプの人たちは、むしろ出世したタイプだったでしょう。

 こうした人たちには、いずれも実在のモデルがいます。私が現在55歳ですから、モデルの多くは私より先輩で、定年退職前後といったところです。30歳代の頃は輝いて見えた先輩たちが、次第に魅力を失っていき、会社人生の後半では「平穏無事に定年を迎えたい」と言わんばかりにおとなしくなってしまう。こんな姿をたくさん見てきました。

 どこかで目標を見失ってしまったように思えてなりません。あるいは、どこかの時点から競争を回避することが“目標”になってしまったのかもしれません。