ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 企業と会計監査人は、どのような関係であるべきか。筆者は、健康診断の受診者と医者のような関係であるべきではないかと考えている。

 上場している株式会社は、社会の公器である。経営を担う経営者は、常日ごろから企業の健康維持や体質改善に努め、投資家を中心としたステークホルダーにその状態を知らしめておく必要がある。これは経営者として、最低限の責務であろう。

 この意味で、会計監査は財務会計の視点からの「企業の法的健康診断」とみなせる。企業の診断書の主要部分が、有価証券報告書となる。会計監査人は、この診断書の数値に関する部分にお墨付きをつける役割を果たす。

企業が健康かどうかを示すには外部のお墨付きが必要

 そもそも上場企業の経営者であれば、自分が経営している企業が健全であり、将来的に期待が持てることを、証券市場という公的な場で投資家に対して積極的にアピールしたがるはずである。そのために、しかるべき外部の専門家の診断を受け、その健全性を証明してもらおうとするであろう。「自己証明は証明にあらず」という言葉があるように、自社のスタッフがどれだけ優秀であっても、外部のお墨付きが必要になる。

 ただし、外部の専門家ならだれでも良いというわけではない。個人の健康診断で考えてみると、少々割高であっても、できるだけ著名な病院あるいは腕の立つ医者に診断を依頼したいと思うのではないだろうか。その上で、「問題がない」と証明してもらったり、受診者個人が気づいていない病の兆候を指摘してもらったりすることを望むはずである。

 企業の場合も全く同じである。できるだけ著名な監査法人あるいは腕の立つ会計監査人に監査を依頼し、自社の健全性を証明してもらったり、経営者自身が気づいていない課題を指摘してほしいと思うであろう。

 こうした外部の専門家により、数値の信憑性が保証されて初めて、企業の身体能力を示すEPS(一株あたりの当期純利益)やROE(株主資本利益率)といった各種指標が意味のあるものとなる。ここで使用する数値の基となる会計基準としては、グローバルレベルで統一されつつあるIFRS(国際会計基準)が最も客観性が高いといえるであろう。

 会計監査人(医者)から問題点(病)を指摘されたら、即座に治療を施さなければならない。ただし、その場合に何らかの対策を打つかどうかは、最終的には企業(患者)自身の問題である。「煙草を止めろ」と言われても、止めないという判断があるのと同じだ。

 それでも、経営者が「自らの企業の健全性(健康)を保つことが大切である」という価値観をもって行動し、かつ第三者からのお墨付きをもらっているのであれば、昨今、話題に上っているような会計に関する不祥事は、かなりの確率で防止できるであろう。

 では実際のところ、企業と会計監査人は患者と医者のような関係になっているのだろうか。筆者の知る限り、必ずしもそうはなっていないように思える。会計監査は法的に定められた作業に過ぎず、形式的な体裁を整えた上で極力、最低限の内容でかつ低コストですませたい。多くの企業は、このように捉える傾向が強いように感じる。

 しかも、監査法人は立場的に強く物を言えない、より厳格に監査するのは困難、などという議論もある。監査報酬を、監査対象の企業から直接もらっているからである。結果として、企業の健全性を証明する作業は余計に負のスパイラルに入りやすくなっているのではなかろうか。