新しい1年がスタートしました。本年もITproをどうぞよろしくお願いいたします。

 国全体が歴史的な危機に直面するとは思いもよらなかった1年前のこの日、筆者は2011年の展望記事の最後で、「2011年はWebの世界でも、非Webの世界でも、ITproらしさを」と書きました。

 そのわずか2カ月後に、あの日が到来。その後の10カ月は文字通りあっという間に過ぎ去ったという印象です。“らしさ”を十分に発揮できたかどうかは読者の皆様の判断に委ねるとして、この2011年にITproは、Webと非Webの双方の世界で、様々な取り組み、経験をさせていただきました。

 特に忘れられない経験が二つあります。

 一つは、東北地方の復興支援を目的に開催したAndroidアプリとアイデアのコンテスト「A3(エーキューブ) Together」、とりわけ昨年10月の表彰式の会場で実施した、受賞作品10組のプレゼン大会です。ご協力をいただいた2人のコーチによる前日の猛特訓の成果もあって、受賞者たちのプレゼンは本番で劇的に改善。復興支援にかける思いの詰まった各自の作品を、来場者に向けて実に分かりやすく面白くアピールすることに成功しました。

 何より感動的だったのは、従来の常識にとらわれることなく、スマートフォンやクラウドサービスならではの利点を引き出そうと、徹底的に考え抜かれた作品が多かったことです。

 例えば、すべてのスマートフォンにマイクとスピーカーが付いていることに注目し、テキストやURLなどの情報を、「音」を使ってスマートフォン同士でやり取りできるようにしたアプリ「toneconnect(トーンコネクト)」(開発者は有限会社アドリブの加畑健志氏)。たとえ携帯電話網が途絶しても、近くのスマートフォン同士で手軽に情報を交換したり、ラジオ放送によって広範囲・多数のユーザーに一斉に情報を伝達できるようにするという着想に、表彰式に参加した来場者からも、アプリをダウンロードした多くのユーザーからも、驚きの声や賛辞が寄せられました。

 それもすべては、スマートフォンが持つ潜在的な可能性と、それを現実世界でいかに役立てるかを徹底的に考え抜いた開発者本人の思いがあってこそ。プレゼンの前後や表彰式後の懇親会で、アプリに込めた思いを熱く語る加畑氏と言葉を交わし、筆者はそう痛切に感じました。

 忘れられないもう一つの経験は、大手企業のCIO(最高情報責任者)6人と、大手ITベンダー8社の経営者が、日本を強く元気にするためにITが果たすべき役割を議論した「ITpro EXPO ステアリング・コミッティ」です。昨年8月の全体会合では、大小の意見の食い違いがありながらも、長時間に及ぶディスカッションの末に、「グローバル化」「イノベーション」「スマート社会」「ビジネス継続」「次世代リーダー」の各テーマに沿って5つの宣言を採択しました(関連記事)。

 これら5つのテーマ設定自体に驚きはないかもしれませんが、重要なのは日本を代表する14社のリーダーたちが、テーマごとの具体的な行動指針として、「ITを最大限に、戦略的に活用すること」や、「ビジネスはもちろん、ITそのもののイノベーションでも世界をリードすること」を明確に打ち出した点にあります。

 日頃はライバル同士だったり、発注者と受注者として利害の対立する関係だったりする14社が、震災前から抱いていた危機感と震災後の状況認識を共有し、ITの可能性を最大限に引き出して国難に打ち勝とうと宣言したこと。これこそがステアリング・コミッティ宣言の最大の意義であったと筆者は考えます。