計画の「中身」の作り方、前回はプロジェクトの“目的“を明確化する方法について説明しました。今回はその目的を達成するために、プロジェクトで「何を作らなければならないか、何をやらなければならないか」、すなわち「プロジェクトのスコープ(範囲)」を定義するというテーマで考えてみたいと思います。

 ええ、本当は「おでん屋の“スコープ”を明確化する」と書きたかったのです。打ち間違えて“スープ”になってしまいましたが、個人的に面白かったのでそのままにしちゃいました。すみません。


前略 この冬、僕はおでん屋で失敗しました。

 きっと君は知らないと思いますが、僕の住む町では年末に住民の手による小さなお祭りが行われます。

 冬にもかかわらず大掛かりな花火もあり、その日は朝から町内全域に浮き足立った空気を感じる程で、大人になった今でも僕はこの祭りを楽しみにしているのです。

 ところが、今年はひどく苦労することになってしまいました。祭りの会場となるグラウンドに何件か屋台を出すのですが、僕がおでんの屋台を準備することになったのです。今思えば、「ここで断っておけば…」と後悔しきりですが、日曜大工が趣味の僕ですから、その時は「よし、ひとつカッコイイ屋台を作ってやろう」と、腕を鳴らして引き受けてしまった訳なのです。

 祭りの前日までは楽しかったのです。ホームセンターで調達してきた木材や鉄パイプを加工し、自分でも感心するような力作が完成しました。私の頭の中には、以前テレビで放送していた“プロジェクト”を題材にした人気番組の、あの印象的な主題歌が流れていた程です。

 しかし、祭りの日、おでんの販売を担当する近所のおじさんに屋台を引き渡した時、問題が起こってしまったのです。

 まず、おでんのスープがありません!おでんのネタはおじさんが準備すると言っていたので、すっかりスープも一緒に用意してくれていると思っていました。しかし、おじさんは熱々のスープが入った状態で屋台が用意されているとものと考えていたようです。さらには、ディーゼル発電機やガスボンベもありません。もちろん電球やガスコンロは屋台に取り付けていたのですが、発電機や燃料まで準備することは考えていませんでした。

 「おいっ、どうするんだよ!」と、おじさんはケンカ腰で詰め寄ってきます。「そんなこと言われても!」と、僕も反論しようとしましたが、言い争っている場合でもありません。不本意ながらもとりあえず謝り、おじさんと協力して発電機やボンベの手配と、スープ作りを急ぐことにしました。

 結局、おでんが食べ頃を迎えたのは、フィナーレの大玉花火によってグラウンドが歓声に包まれた後でした。

 まぁ、仕方ないのかも知れませんが、今回の責任を取って来年も僕が屋台の準備をしなければなりません。来年はぜひ君を誘いたいと思っていたのですが、今年と同じことが起こるかもしれないと考えると少し気が引けています。

 ちなみに同封の写真は、おでんを煮込みながら少しだけ撮ることが出来た花火と、大量に余ったおでんをおじさんと二人でつついている時のものです。

またお便りします。それまでお元気で。

草々

「常識は人によって違う」、後でモメないために

 プロジェクトを成功させるためには、スコープをあらかじめ明確化しておくことが必要不可欠と言えます。

 プロジェクトで出来上がるもの・やることが曖昧なまま作業を進めると、「このプロジェクトでそこまでやる必要があるなんて、聞いていないよ!」、「いや、これをやるのだったら普通それも一緒に作るでしょう!」と言った“モメごと”が必ずと起こってしまいます。

 そのような問題を防ぐためには、なによりもプロジェクト計画時にスコープを文章や図で“明瞭”に定義して、関係者達とあらかじめ合意しておくことが重要です。 「相手もちゃんと分かっているだろう」とか、「ここまでやるのが当たり前だろう」とか、そのような“推測”は厳禁です。スコープを明確化する際には、「常識は人によって違う」と言う前提で、多少くどくなったり、しつこくなったりしたとしても、きっちりと確認を取らなければなりません。