NTT東西地域会社は、現在PSTN(加入電話網)で提供している各種サービスについて、交換機が寿命を迎える2020年頃からIP網へのマイグレーションを開始し、2025年頃に完了する方針を明らかにしている。マイグレーションを進めるには、IP網で継続できない一部サービスへの対応や、各社のIP網同士を直接接続する際に必要となるハブ機能の実現方法など、接続事業者との調整が必要となる課題が多数ある。NTT東西はこうした課題について通信事業者間で話し合いを進めるための場として「PSTNマイグレーション意識合わせの場」(事業者間協議)を2010年6月に設置した。非公開の事業者間協議でどういう議論が行われているのか、主催者側のNTT東日本に聞いた。

 事業者間協議はこれまで、2011年6月24日、9月9日、10月28日の3回、およそ2カ月弱に1度のペースで開催されている。6月の初回会合では七つの議論テーマを選定した。2回目以降は、この七つある議論テーマについて順番に議論している。9月の第2回会合では「インタフェースの標準化・通話品質」について議論し、電信電話技術委員会(TTC)の標準規格であるJT-Q3401を検討のベースとすることで合意したという。また、移動体網との接続については、TTCでの標準化の検討結果を参考することになった。10月の第3回会合では、番号ポータビリティについて議論を行い、実現方式や評価項目を基に議論を深めていくことで合意した。

 12月には第4回会合を予定しており、緊急通報や天気予報といった特番呼などとの接続をどうするかについて議論する。このほかそれ以降の会合で検討を行う予定の課題として、「POI設置の複数化について」「IP網同士の直接接続への移行方法」「事業者間の接続形態」「費用負担のあり方」などがあるという。

電話網以降円滑化委員会とは車の両輪

 PSTNのマイグレーションに関する政策面での対応については、総務省の情報通信審議会 電気通信事業政策部会 電話網移行円滑化委員会で議論が行われている。ここでは、移行に伴う技術面/運用面での課題は事業者間協議の場で解決を図ることが望ましいとしている。その一方で、同委員会では第2回までの事業者間協議の開催結果を受けて、「参加者が少ない」「議論の透明性確保が必要」「議論の進捗が遅い」といった点を問題点として指摘した。

 NTT東西と接続協定を締結している339事業者のうち、事業者間協議に参加したのは初回が30社、2回目、3回目には23社に留まった。こうした現状についてNTT東日本は「開催案内は毎回全対象事業者に出している」というが、もともとIPで接続しているISP事業者などの中にはこの件に対する関心が低い事業者も多いようだ。ただし、339事業者のうちIP網移行の影響が大きい電話系の接続事業者41社に限ると、協議会の会合には20社以上が毎回参加している。さらに電話系事業者39社はメーリングリストに参加して議事録などの情報提供を受けており、電話系の事業者に限れば参加率は低くないと説明した。NTT東日本では今後、関東以外の場所でも事業者間協議を開催することで、地方の事業者が参加しやすくすることも検討している。

 議論の透明性に関しては、総務省からオブザーバーを招くなどして、委員会との風通しを高めている。また、接続協定を結んでいる事業者には、各回の事業者間協議の議事録を提供し、議論の内容をチェックできる体制を作っている。ただし議論内容の一般公開については、「中には通信各社の経営内容に踏み込む内容もあり、NTT東西の一存で公開を判断できない。また公開を前提とすると、逆に自由な議論がしづらくなる懸念もある」(NTT東日本)という。議論の公開については参加企業の意向を確認しながら、今後慎重に検討するという。

 議論の進め方に関してNTT東日本は「どれも重要なテーマで、丁寧に議論したい」と述べ、委員会の議論と並行しながらも時間をかける方針を示した。「PSTNのマイグレーションは、NTT東西だけでなく全事業者が関わる問題。マイグレーションを始める前に技術開発期間が必要となるため、2020年まで議論できるわけではないが、各事業者の意見を広く吸い上げながら進めていきたい」と説明した。