写真1●左はニコニコ事業本部 企画開発部 第八セクション(静画)の黒田晋哉セクションマネジャー、右は第八セクション エンジニア第二グループの庄司嘉織 ニコニコ静画(電子書籍)システムリーダー
写真1●ニコニコ静画(電子書籍)の企画・開発メンバー
左はニコニコ事業本部 企画開発部 第八セクション(静画)の黒田晋哉セクションマネジャー、右は第八セクション エンジニア第二グループの庄司嘉織 ニコニコ静画(電子書籍)システムリーダー
[画像のクリックで拡大表示]

 「学生時代に部室でジャンプとかをワイワイしゃべりながら回し読みしている、読んだ後に貸して感想を話し合う、そんなイメージをニコニコなら実現できるのではないか」。ドワンゴ ニコニコ事業本部 企画開発部 第八セクション(静画)の黒田晋哉セクションマネジャー(写真1左)は、「ニコニコ静画(電子書籍)」の開発の発端をこのように説明する。

 ニコニコ静画(電子書籍)は、ドワンゴが2011年11月8日から開始した電子書籍配信サービスである(関連記事:「ニコニコ」が電子書籍、コメント投稿・共有機能でソーシャルリーディング)。電子書籍の閲覧だけでなく、読者がコメントを投稿し、それらを共有できる機能を備えるのが特徴だ(写真2)。対象読者はニコニコ動画の会員となる。

写真2●コミックにコメントを付けた例
写真2●コミックにコメントを付けた例
[画像のクリックで拡大表示]

 ニコニコ静画(電子書籍)は、その名前が示す通り、元々静止画を扱うコミュニティサイトとして存在していた「ニコニコ静画」をベースに、より多くのユーザー獲得が狙える電子書籍の配信サービスを追加したものだ。

 冒頭の言葉通り、企画・開発の当初からソーシャルリーディングを意識していたという。「ニコニコは元々コミュニティサイトで、コミュニケーションするための“ネタ”としてエンタテインメントのコンテンツがあると捉えると分かりやすいかもしれない。交流のきっかけとなるコンテンツがあって、その上でワイワイとコミュニケーションが取れるサービスを目指す」(黒田セクションマネジャー)。

ソーシャルな部分も含めてコンテンツ

写真3●ニコニコ静画(電子書籍)のデモの様子
写真3●ニコニコ静画(電子書籍)のデモの様子
文章を範囲指定してコメントを付加している。スクリーン上のコメントはニコニコ生放送のもの
[画像のクリックで拡大表示]

 11月8日のニコニコ静画(電子書籍)の発表会時、ドワンゴの川上量生会長は角川グループホールディングスの角川歴彦会長との対談で(写真3)、「ソーシャルな部分も含めてコンテンツだと思う」との考えを示している。ドワンゴの各種サービス「ニコニコ動画」や「ニコニコ生放送」などは、まさにコンテンツに“ソーシャル性”を加える取り組みと言えるが、その取り組みに電子書籍も加わった格好だ。

 さらに川上会長は、「ネットはコンテンツの寿命を短くする方向に作用するが、その中にあって唯一コンテンツの寿命を延ばしているのは2次創作。2次創作というのは改変だけではなくて、コメントを付けることも該当する。それをもっとコンテンツ自身に取り込むことで、コンテンツの寿命は長くなるし、コンテンツの価値も高まる」と指摘している(関連記事:角川会長が電子書籍で「アマゾンと1年間交渉」、ドワンゴ川上会長との対談で明かす)。

 本記事の取材はニコニコ静画(電子書籍)のサービスの開始から1カ月もたたないうちに実施したが、その時点で既に「テルマエ・ロマエ」(エンターブレイン)のような紙で人気のあるコミック作品の電子版には、「コメントが付いていないページがないくらい。紙で読んだ人も『コメントが面白かった』といった声もあり、1回読んだ後であらためて電子版でコメントを書く、という体験ができている」(ドワンゴ ニコニコ事業本部 第八セクション エンジニア第二グループの庄司嘉織 ニコニコ静画(電子書籍)システムリーダー、写真1右)という。まさにコンテンツの価値がさらに高まる効果が既に表れている。

 もちろん、著者によっては作品にコメントを付けられたくなかったり、“荒れる”のを心配したりすることもあるだろう。そうした事情に配慮して、ニコニコ静画(電子書籍)はコメントを付けられないようにした電子書籍を配信することも可能だ。ただ実際にサービス開始後の出版社の反応は、「『コメントは意外と荒れませんね』といったものだった」(黒田氏)そうだ。

 また、ニコニコ静画(電子書籍)には「立ち読み」できるコーナーがある。この際、コメントが多く付いた電子書籍の方が、サイト上ではより目立つところに出てくることもあり、「最初はコメントなしでやっていた出版社が、その後、コメント機能をオンに変えたという動きもある。コメントを付けた方がニコニコでは盛り上がるというのが伝わり始めている」(同氏)。