IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(編集:日経情報ストラテジー

ユーザー企業に“システム屋”を語ってもらう場で
ダメな“システム屋”の会話 聞き手(=佐藤) 「これまでに会った“システム屋”のなかで、心に残る“システム屋”っていましたか?」
ユーザー企業A 「良い意味ですか、悪い意味ですか?」
聞き手 「確かに私はダメな“システム屋”をテーマにした連載コラムを書いていますけれど、今回はダメな方ではなく、良い意味の方でお願いします」
A 「良い意味で心に残る人で、すごく仕事の早い人がいました」
聞き手 「具体的に教えてください」
A 「大多数の“システム屋”って仕事が遅い印象なんですよ。時間にルーズで会議は長く、朝は遅い。ところが、その人の早さは尋常ではなかったですね」
聞き手 「といいますと?」
A 「何と、いつも会議が終わる時に議事録のコピーを配るんです」
聞き手 「それは早い!」
A 「驚きました。手書きですが、会議が終わる直前に議事録を完成させて、中座してコピーを取り、その場で配るんです。内容も簡潔でよくまとまっていました」
聞き手 「それは心に残りますね。でも、なぜ会議が終わってないうちに議事録を作れるんでしょうか?」
A 「彼にとって、会議は終了時間より前に“終わっている”ようです。会議の終わりの方はだいたいループというか、同じことを繰り返すような感じになります。ループが始まった時点で、実質的に“終わっている”と判断するのでしょうね」
聞き手 「それはすごい。Bさんはいかがですか?」
B 「私は本当の意味で“生涯システムエンジニア”のような人が心に残っています」
聞き手 「“生涯システムエンジニア”とは?」
B 「“システム屋”がベテランになると、プロジェクトマネジメントに重心を移すケースが多いですよね。プロジェクトマネジャー(プロマネ)を自称しつつ、実はシステムの中身をよく分かっていなかったりします」
聞き手 「確かにそうですね」
B 「私が知る“システム屋”は、ベテランなのに、プロマネ業務の半分以上を若手に任せてしまって、自分は最重要と思う部分のシステムの中身に入っていくんですよ」
聞き手 「自分で設計までしてしまう?」
B 「そうです。プロジェクトによって、業務設計だったり、データベース設計だったり、ネットワーク設計だったりします。恐らく本人の判断で、一番重要だと思う部分に注力するのです」
聞き手 「なるほど」
B 「我々ユーザーの立場では、システム開発がプロジェクトとして失敗しなくても、中身がいまいちだったら意味がありません。システムを完成させること自体が目的化しているプロマネが多いなかで、その人は、良いシステム、効果的なシステムを作ることに一生懸命になってくれたので、印象に残っています」
聞き手 「Cさんはいかがですか?」
C 「収束と発散を上手に使い分ける柔軟な人が印象に残っています」
聞き手 「といいますと?」
C 「とにかく意見を切り捨てたり、要件を削ぎ落としたり、収束を急ぐ思考パターンの“システム屋”を多く見てきました。確かに時間は有限ですが、発散が必要なときだってあります」
聞き手 「発散とは具体的に?」
C 「ひと昔前のシステムなら、事務作業を電子化して、合理化するだけで良かったかもしれません。でも、売上高拡大などを狙うシステムは、各論では様々な方法があります。顧客層をいかに巻き込むか、インターネットをどう活用するか、など」
聞き手 「確かに、唯一の正解や最適解があるわけではないですよね」
C 「そういうときにブレーンストーミングが有効だと思うのですが、大多数の“システム屋”は無口になります」
聞き手 「そうかもしれません」
C 「早く決めてくれ、みたいな顔つきになって」
聞き手 「それは、私にとっても耳が痛い」
C 「私が知る“システム屋”は、発散のときも収束のときも、いずれも周囲を上手に巻き込み、会議を盛り上げて出席者を鼓舞できる人です。とても印象に残りました」
聞き手 「三者三様でしたが、ダメじゃない“システム屋”たちがいるという話を聞いて、うれしい限りです」

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ダメな“システム屋”ばかりではない

 上の内容は、私が実際聞いた話を基にしています。

 情報システムのユーザー企業や、ユーザー部門のベテラン社員の方々に、「これまで会った“システム屋”の中で心に残るような人がいましたか」という質問をしました。「いません」と言われてそこで話が終わってしまったら困るな、と思っていましたが、杞憂(きゆう)でした。3人とも即座に、そして楽しそうに話し始めました。