ビジネスの現場では、「売り手」と「買い手」の要求を同時に満たすのは難しい。そこに「世間」も加え、相異なる三つの要求に応えようとすると、さらに難易度は増す。
だが情報システムを活用することで、その「連立方程式」を解き、三方よしを実現した企業がある。前回のホンダに続き、ヤマトホールディングスとダイキン工業を紹介しよう。駆使するのは最先端のITではない。賢く使いこなす知恵こそが重要だ。
ヤマトホールディングス:「買い物弱者」をお得意様に
「山間部に住むお年寄りや、外出を控えたい妊婦など、実店舗では取り込めなかった層を顧客にできた」。静岡県西部で28店舗を展開する食品スーパー、遠鉄ストア(写真1左)営業部の犬塚賢 営業企画課長はこう強調する。
同社は2010年10月、ヤマトホールディングスのクラウドサービスを採用し、ネットスーパー事業に参入した。実はこれも、三方よしを実現したシステムだ。
サービスの「買い手」である遠鉄ストアがネットスーパー参入に際して導入した機器は、PCとPOS(販売時点情報管理)レジの各1台だけ。あとはヤマトのクラウドサービスを利用した。サービスの初期費用はかかるが、月額利用料は1店舗当たり約15万円と、地場スーパーでもさほど負担にならないレベルだ。
遠鉄ストアのネットスーパー会員数は約3500人。「まだ赤字だが、1日の利用件数が現在の倍の60件程度になれば、人件費や配送コストも含め黒字化するはずだ」と犬塚氏は算盤をはじく。送料無料キャンペーンの効果もあるが、ネットスーパーの平均客単価は約4000円と、実店舗の2倍に達する。重くてかさばる米や飲料ケースなど、単価が高い商品がよく売れるという。
システムを自前で用意しないで済むことのほかに、遠鉄ストアがヤマトのサービスを利用するメリットはもう一つある。自前でネットスーパーの物流網を構築せずに済むことだ。
30キロ先でも即日配達
仕組みはこうだ。まず消費者がネットで商品を注文すると、ヤマトの受注システムが商品リストを印刷する。このリストを基に、遠鉄ストアの店員が売場から商品を集め、梱包する。並行して、ヤマトの受注システムは宅配便伝票を印刷する。遠鉄ストアの店員が梱包した荷物に伝票を貼付した頃に、ヤマト運輸のトラックがスーパーに集荷に来る。
遠鉄ストアの場合は、一つの旗艦店舗で作業を集中して行う。その後は、ヤマトが自前の配送網を使って顧客の自宅に商品を届ける。クレジットカード決済など、集金の仕組みもヤマトが提供する(写真1右)。