by Gartner
ピーター・ソンダーガード リサーチ部門最高責任者
山野井 聡 ガートナージャパン リサーチ部門代表

 もはやCIO(最高情報責任者)は、既存の情報システムの改善だけでは成功できない。CIOはビジネスの前線に立ち、ITの役割をゼロから発想し直す必要がある。そのための視点を三つ紹介する。

ポストモダンビジネス

 ポストモダンビジネスとは、企業と顧客との関係を一新した、新しいビジネスのあり方だ。企業は顧客の喜びや、顧客による自社への関与、顧客との親密さという視点でビジネスを考え、顧客や利害関係者の要望を反映して、企業の形を変えなければならない。

 CIOは変化が激しい顧客の関心事を把握して、顧客を喜ばせ、顧客との親密度を深めることに責任を負うようになる。これからは、顧客満足度のみが企業の命運を決める。「顧客の企業に対する忠誠心(カスタマーロイヤリティー)」ではなく、「企業の顧客に対する忠誠心」を高めるべきだ。

 情報システム部門には、従来以上に俊敏さが要求される。情報システム部門は専門的なクラウドサービスを組み合わせることで、システムを素早く構築して利用部門に提供する「クラウドブローカー」のような存在になる。

簡潔さ

 我々は複雑で時間に追われる世界に住んでいる。だからこそ我々は簡潔さを切望している。人々が簡潔さを求めている証拠の一つが、PCからモバイル端末へのシフトである。

 ガートナーは、2015年までにスマートフォンやタブレット端末を対象としたモバイルアプリケーション開発プロジェクトの数が、PC向けプロジェクトの数の4倍に達すると予測している。PCはもはやITの「王様」ではない。ITはより簡潔になり、人々はあらゆるデバイス上で自分のやりたいことをできるようになる。

 モバイルアプリケーションでは、ユーザーの場所や行動パターン、時間帯といった「コンテキスト」に応じてアプリケーションの振る舞いが変化する「コンテキスト・アウェア・コンピューティング」がより重要になる。情報システム部門には、ユーザーのコンテキストを収集し、分析するのに長けた人材が必要となる。

創造的破壊

 CIOは「創造的破壊」のリーダーであるべきだ。ユーザー部門の要望に完璧に応えていれば情報システム部門が評価される時代は終わった。CIOにはユーザー部門の要望を聞くのではなく、ユーザー部門に良いアイデアを推薦することが求められている。

 創造的破壊を実現する上で、情報システム部門は「ペース・レイヤー・アプリケーション・ストラテジー」という考え方を導入するのが望ましい。

 ペースレイヤーとは建築学の考え方で、頻繁に変更すべきものと、長期間変わらない基礎的なものとを切り分けることを指す。情報システムを頻繁に変更するシステムとそうではないシステムとに切り分け、それぞれのライフサイクルでシステムを更新するようにすべきだ。

 CIOは完璧主義を捨てて、計算可能なリスクを受け入れる必要がある。これからは、リスクを取らないことが、企業にとってリスクになる。なぜならリスクを取らない企業とは、競合企業にとっては予測が容易な、与しやすい相手でしかないからだ。