筆者の友人である戦略コンサルタント鈴木貴博さんの著作「『ワンピース世代』の反乱、『ガンダム世代』の憂鬱」(朝日新聞出版)がなかなか面白い。この本の要旨は「機動戦士ガンダム」を青年期に見て育った40代と、同様に青年期に「ONE PIECE」の影響を受けた20代の世代間ギャップ論だ。筆者はまさにこの本でいうところの「ガンダム世代」である。

 この本によるとガンダム世代の特徴は、「組織は理不尽と認識しつつも、そこに従属することをよしとする」「個人の感情は押し殺し、表面的に正しいことに従う」というタテ社会に住んでいることだという。こう指摘されると、ちょっと反論してみたくもなる。しかし、実際にシステム開発プロジェクトなどでのガンダム世代の行動や思考を見てみると、かなり本質的な部分をズバッと突かれているのではないかと思ってしまう。

 ある40代半ばのITエンジニアAさんの話を紹介しよう(ちなみにAさんは大のガンダムファンである)。以前あるプロジェクトに参加したときのプロジェクトマネジャーB氏が、信じられないくらいアバウトだったそうだ。

 プロジェクトが始まるとまずはガントチャート式のマスタースケジュールが配られた。見た目はそれなりのスケジュールであったが、「そんなものは大して役に立たない。スケジュールは刻一刻変わるものだ。進捗管理は俺の経験に任せておけ」というのがB氏の持論であった。

 プロジェクトが進行するにつれ、頻繁にスケジュール変更が発生する。明らかに遅延が発生している状況でも、B氏はガントチャートをちょこちょこっと書き直し、辻つまを合わせる。これはさすがにまずいな、と悩んでいるとB氏から「スケジュールが押し気味だから、アクセル全開でいくぞ」と号令がかかる。なんのことはない、ガンガン残業しろという指示である。

 Aさんだけでなくほかのメンバーも、B氏のひどさを恨みつつも、プロジェクトを遅延させるわけにはいかないという責任感で、連日残業、休日出勤をして綱渡りのように作業をこなしていった。そんなある日、B氏が「システム運用マニュアルを作れ」と指示してきた。曖昧な契約でプロジェクトがスタートし、後になって顧客がマニュアルの納品を強く要求してきたので、営業担当者とB氏が協議して要求を飲むことにしたのだという。

 既に疲労困憊のAさん、これにはさすがに頭にきてB氏に掛け合ったが「とにかくやれ」の一点張り。営業担当者に文句を言っても「お客さんの要求だし、契約時にきちんと決めなかったこちらが悪い」という。「それは営業の責任じゃないか」と言いかけたが、営業担当者にマニュアルが作れるわけではなく、結局は自分が作るしかないと割り切ってやったそうだ。

 プロジェクトは予定より多少遅延したが、Aさんたちの努力を顧客が評価し遅延を許容したため、表面的には成功プロジェクト扱いとなった。するとB氏が成功は自分の手柄だとばかりに自慢話を連発する。なんともやりきれない思いと、それでもプロジェクトが成功したという達成感の二つの思いが交錯したという。

 Aさんと同じような経験をしたガンダム世代は多いはずだ。理不尽なプロマネの指示をも受け入れて自分の仕事をやり遂げようとするAさんのやり方こそ、ガンダム世代の組織や仕事に対する姿勢の典型であろう。

 しかし、自分たちが経験したこのやり方を「ワンピース世代」に求めても、同じようには動いてくれない。彼らは「組織よりも自由と仲間を大事にする」「自分で正しいと思うことに従って判断する」からである。部下が動いてくれないことを「坊やだからさ…」と嘆いても何も始まらない。世代間のギャップを理解し、適切な指示を出さなくてはならない。それはなかなか難しいことではあるのだが。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「事例で学ぶRFP作成術実践マニュアル」「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)、