アビーム コンサルティング
執行役員 プリンシパル
安部 慶喜

 本連載では、情報システム部門(IT部門)がIFRS(国際会計基準)対策を能動的に進めるためにはどうすべきかを中心に解説している。前回(IFRSによる会計/経営情報系アプリケーションへの影響(下))までは、各種アプリケーションシステムがIFRS導入により、どのような影響を受け、どのような対策が必要になるかを解説してきた。

 今回は少し視点を変えて、実際にIFRSプロジェクトに取り組む際の推進の手順や各フェーズで検討すべきポイントを取り上げる。特に、IT部門がどのように関わっていくのかを中心に解説する。その前に、IFRSを取り巻く動きに少し触れておきたい。

適用延期で「Before IFRS」に取り組む企業が急増

 自見庄三郎金融担当大臣が2011年6月に、IFRS強制適用時期に関して事実上の延期を示唆したことは、ご存知の方も多いだろう。少なくとも、当初の見込みよりも2年の延期となるのは決定的である。このことは、各企業のIFRS対策計画にどのように影響しているのだろうか。

 企業の中には、強制適用時期が延期になっても、自社のIFRS適用時期を特に変更していないところもある。IFRSの任意(早期)適用を目指している企業や、強制適用開始時期として当初想定されていた「2015年度」を目標に業務改革やシステム刷新を予定していた企業の一部が該当する。

 しかし、こうした企業は全体から見ると少数派である。実際には多くの企業が、当初のIFRS対策計画を見直しているようだ。では、これらの企業は延期された2年分、単純に作業を後ろ倒しにしているのだろうか。必ずしもそうとは言えないようだ。

 筆者は2011年7月以降に数十社の上場企業を訪問し、今後のIFRS対策について議論を交わしてきた。大臣発言のタイミングで、多くの企業は会計方針を策定している段階にあった。これらの企業は2011年7月以降、いったん作業を凍結したか、完了予定を延期させて体制を縮小させる傾向にある。

 その一方で、興味深い傾向に気付いた。我々が「Before IFRS」と呼んでいるものだ。

 Before IFRSとは、子会社の連結パッケージの精度向上、決算早期化、子会社・親会社の連結業務の効率化、子会社の体制強化・教育といったIFRS対策に関連した一連の取り組みを指す。これらはIFRSを適用する前に実施すべきものであり、“古くて新しい”課題といえる。

 各社はIFRS対策プロジェクトを通して、Before IFRSの必要性を改めて認識した。我々は複数の日本企業でIFRS早期適用を支援してきたが、驚くことにそれらの企業すべてがBefore IFRSを事前に、もしくは同時に実行していた。しかもBefore IFRSを、IFRS対策と連携しつつ、別プロジェクトとして推進しているケースがほとんどだった。各社がBefore IFRSを重要視している証と言えるであろう。

 適用延期により生じた2年の余裕をBefore IFRSに充てるべき、というのが我々の主張である。これについては、別の機会に改めて説明したい。ここからは本題に戻って、IFRSプロジェクトの進め方について解説しよう。