国内ユーザー企業の反発を承知の上で、海外ソフトメーカーが保守サポート料金やライセンス料金を値上げする真意は、どこにあるのか。保守サポート料金についての実態と値上げの真意を詳しくみていく。

 登場するのは、「保守サポート料金を(ほぼ)毎年値上げしていく」と表明したERP(統合基幹業務システム)ソフト大手の日本オラクルとSAPジャパン、「保守サポート契約を自動更新する」という日本IBM、「ソフトウェア アシュアランス」と呼ぶ企業向けライセンス形態の一つを大幅改訂したばかりの日本マイクロソフトである。

【日本オラクル】毎年2~3%値上げへ

 「更新時調整料金」――。日本オラクルが2011年11月に導入する新たな保守サポート料金の名称だ。保守サポートサービス「Premier Support」に適用する。Premier Supportの主な内容は、ソフトの不具合の修正、法改正対応のためのソフトの修整、Webによる24時間の問い合わせ受け付け、新バージョンの無償提供などである。

 同社は11月以降、ユーザー企業との間で保守サポート契約を更新する際、更新前の年額料金に、更新時調整料金を上乗せして、翌年の契約料金とする。更新時調整料金は、更新前の保守サポート料金に数%の「調整率」を乗じた金額だ。日本で2011年11月から2012年10月までに更新を迎える保守サポート契約の調整率は、2%と決まっている。

 調整率は一定とは限らない。米オラクルが毎年、国ごとに料率を決定するからだ。2012年11月以降の調整率は、2~3%になるとみられる。更新時調整料金の適用対象は、日本オラクルの全製品だ。Oracle Databaseなどのソフトウエア製品だけでなく、サーバーなどのハードウエア製品も含む。

 更新時調整料金の適用イメージはこうだ。Oracle Databaseを例に取ると、これまでの保守サポート料金(年額)は、製品のライセンス料金の22%で毎年一定だった。この11月以降の保守サポート料金を求める際は、22%に調整率2%を乗じた0.44%分を旧料金に加算する。つまりライセンス料金に22.44%を掛け合わせた金額が、新たな保守サポート料金になる(図1)。

図1●日本オラクルの保守サポートサービス「Premier Support」における新しい料金体系の適用イメージ
図1●日本オラクルの保守サポートサービス「Premier Support」における新しい料金体系の適用イメージ
毎年の契約更新時に、前年の年額料金に数%を乗じた料金を加算して更新する形態を、2011年11月に開始する。これにより、保守サポート料金は毎年上昇する。図は、2012年以降も調整率が2%のままであると仮定した場合の試算を記載した。
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 仮に2%という調整率が続くとすれば、少なくとも理屈の上では、保守サポート料金はライセンス料金の22.89%、23.35%……と年々上がり続けていく。

実は「調整率0%」で適用済みだった

 実は更新時調整料金は、厳密に言えば新しい料金体系ではない。米オラクルが更新時調整料金の適用を全世界で始めた2005年から、日本でも適用済みだった。

 ただし、日本で適用された調整率は「0%」だった。事実上、更新時調整料金の適用を先送りしてきたわけだ。

表1●米オラクルによる最近の主な企業買収
表1●米オラクルによる最近の主な企業買収
積極的な買収攻勢により、同社の製品数は10年間で10倍に増加した。
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 日本オラクルの関係者によれば、同社は日本のユーザー企業やパートナー企業の了解を得られないと判断し、「調整率0%」という特別扱いを本社に要請していた。

 しかし「日本だけを特別扱いすることを米本社が許さなくなり、日本法人も抵抗し切れなかったようだ」(独立系インテグレータの営業責任者)。

 米オラクルが更新時調整料金を導入した最大の理由は、保守サポートにかかるコストが増大したことだ。積極的な買収攻勢によって製品数が増えた結果、コストの一部を保守サポート料金に転嫁せざるを得なくなった(表1)。