スマートフォンアプリでグローバル市場に挑む――。2011年は、そんな機運が一気に高まった1年だった。多くの開発者が世界市場を目指したアプリを開発。ある開発者は、資金調達やグローバル市場へのアプローチの容易さを理由に米国で起業(関連記事:「世界を狙うならシリコンバレー」)、別の開発者は国内で得た原資を基にアジア市場に挑む(関連記事:「成長市場を狙え、次はアジア」)。世界共通の開発環境やクラウドコンピューティングの広がりなどを背景に、短期間・格安の“起業パッケージ”が定着したことが追い風となっている(関連記事:起業の新ルールは「PC1台+3カ月+1万ドル」)。

原点は2008年のiPhone向けApp Storeの開始

 この機運の源流は、2007年の「iPhone」登場と2008年のアプリ流通市場「App Store」の開始にさかのぼる。2008年末には、米国市場を目指すiPhoneアプリの開発者10数人が東京・本郷にある老舗旅館に集結(写真1関連記事:米国市場に挑むiPhoneアプリ開発者,本郷の老舗旅館で決起集会)。翌月に控えた「Macworld Conference & Expo2009」(2009年1月5日~9日、米サンフランシスコで開催)におけるPR活動を打ち合わせたのだ。多くの注目が集まる同イベントを足がかりに、米国市場での販売拡大を目指した。それ以降、世界市場を目指す開発者は、iPhoneだけでなくAndroidもターゲットにし、世界市場向けのアプリを作り始めている。

写真1●米国市場に挑むiPhone向けアプリ開発者の面々

 iPhoneアプリとAndroidアプリに共通するのは、世界共通の開発環境と流通市場が用意されていることである。人気アプリになれば、国内だけでなく国外のユーザーにも利用してもらい、グローバル市場から収益を上げることが可能となる。さらに、この両アプリには開発者コミュニティが多数存在しており、会員相互の情報交換や勉強会などを通じて、開発スキルを高めたり人的なネットワーキングを広げることが可能である。国内最大規模のコミュニティ「日本Androidの会」には、2万人を超える登録者がいて、全国各地で支部活動が毎週のように行われている。

 サーバーを利用する場合でも、IT企業各社が用意するクラウドコンピューティング環境を使えば、短期間でサーバー環境を用意でき、事業立ち上げ期の負担を軽くできる。クラウドコンピューティングの例としては、米アマゾン・データ・サービスが提供するAmazon EC2やAmazon S3に代表される「Amazon Web Services」(AWS)や米マイクロソフトの「Azure」などがある。

ベンチャー・キャピタリストの動きも活発

 こうした開発者に投資するベンチャー・キャピタリストの動きも活発だ。例えば、デジタルガレージとネットプライスドットコムによる起業支援事業「Open Network Lab」(写真2)では、育成プログラム「Seed Accelerator」を用意し、スタートアップ企業に100万円を提供、一定期間、同社がオフィススペースやサーバー環境を提供することにしている。12月7日には、同プログラムの第4期に参加する6チームが発表された(デジタルガレージの発表資料)。日本国内からだけでなく、米国、シンガポール、韓国など世界9カ国から合計87組の応募があったという。これは前期の応募総数の約1.5倍に相当、起業の増加傾向の証だとしている。

写真2●デジタルガレージとネットプライスドットコムによる起業家支援事業「Open Network Lab」