米Amazon.com(以下、Amazon)の「Kindle Fire」、なかなか“食えない”製品である。一見すると、Amazonが擁する電子書籍端末の名を冠した紛れもないAndroidベースのタブレットだ(写真1)。だが知れば知るほど「電子書籍端末でもAndroidタブレットでもない、別ジャンルの製品」と感じるようになる――。

写真1●Amazon初のAndroid端末「Kindle Fire」
写真1●Amazon初のAndroid端末「Kindle Fire」
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 筆者は2011年11月下旬、Amazonが米国で出荷したばかりのAndroid端末、Kindle Fireを入手した。出荷前後から米国での人気は高く、タブレット市場で一人勝ち状態の「iPad」シリーズを脅かす存在になりつつあるという(関連記事:北米モバイルアプリ開発者、最も関心を寄せるAndroidタブレットは「Kindle Fire」 )。7インチ液晶を備える手頃な大きさのきょう体にデュアルコアのCPUを搭載しており、基本的なスペックはiPadシリーズや最新のAndroidタブレット製品に見劣りしない。それでいて価格はiPadシリーズの半額以下となる199米ドルなのだから、人気が出るのはよく分かる(関連記事:「Kindle Fire」の推定製造原価は201.70ドル、米社の分解調査)。

 筆者はAndroidに関するITpro上の連載「どろいど探検隊」を担当しており、日頃から注目度の高いモバイルデバイスを定期的に検証している(関連記事:Android端末短期集中レビュー)。Kindle Fireの販売地域はまだ限定的だが、日本での発売も噂されていることもあり、一足先にテストしてみようと思い立ったわけだ。

 技術的に興味を引かれるポイントが多いことも、Kindle Fireを自分で試そうと考えた理由の一つである。例えばKindle Fireに初めて実装された独自Webブラウザ「Amazon Silk」では、端末とAmazonのクラウドサービス「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」が緊密に連携してデータを処理する。これによりWebページの表示速度を高めるという。世界中のISPや通信機器ベンダーが取り組んできた高速ブラウジングの新たな実現手法であり、その実力を検証する意義はある。

 だがKindle Fireの検証作業を何日か続けるうちに、従来のタブレットと一線を画すKindle Fireの特性がいくつも見つかった。内部仕様やユーザーインタフェース(UI)からソフトウエアの細かい挙動に至るまで、Amazonのサービスを使い倒すための特別チューンが施されていたのである。AppleのiPhone/iPadに比べて自由度が高いと言われるAndroidを採用しているものの、iPhone/iPadより厳格にユーザー体験をコントロールしようとする意図が感じ取れる。

 そこで本稿では、そうした特性の一つひとつについて報告していく。第1回となる今回はKindle Fireの基本的な操作感を中心に検証する。

 なおKindle Fireは現状、日本で無線LANの電波を発信するための技術基準適合証明(技適)を受けていない。こうした機器で無線LANを利用すると電波法に抵触する恐れがある。このため無線通信をともなう作業については電波が外部に漏えいしないよう、電波シールド等を利用する必要がある。