成功体験が災いする――。これは、スタートアップ企業でも言えることだとブランク氏は言う。50年前にシリコンバレーの礎を築いたフェアチャイルド・セミンコンダクターも、その後巨大なビジネスとなるIC(集積回路)を認めない時期があったという。(ITpro)

 矛盾のように聞こえるかもしれませんが、スタートアップ企業の初期の成功が、その企業を成功を収める大企業に導く機会を失わせるかもしれません。ほとんどの場合、その原因はセールスとマーケティング担当幹部が、当初のセールスモデルの成功に満足し、最初のピボット(小さな方向転換)の兆候に際してパニックに陥るからです。その結果として彼らは、企業を次のレベルへと到達させる、新たに繰り返しが可能なビジネスモデルを拒否してしまいます。

フェアチャイルドの成功体験はトランジスター

 フェアチャイルド・セミコンダクターのスタートアップ期の歴史をひも解いてみると、私が新しいと思っていた「セールス部門がピボットを妨害する」という問題が、シリコンバレーが創設された50年前に既に起こっていたことが分かりました。

 シリコンバレーで最初の半導体企業として成功したフェアチャイルド・セミコンダクターは、二つの革新技術に基づき創業されました。それは、既存のゲルマニウムではなく、シリコンを使ってトランジスターを製造する技術と、拡散製造プロセスを使いシリコン・メサ・トランジスターをアセンブリー・ラインで大量に製造可能にした技術でした。これらの技術は、多くの読者の方には理解できないかもしれませんが、革命的な技術でした。

 この若い企業は、早い段階で信頼性を目覚ましく向上させたプレーナー型トランジスターを製造する方法を発見し、劇的な技術的ピボットを行いました(図1)。この信頼性の向上により、フェアチャイルドのトランジスターは、軍事兵器システム(航空機エレクトロニクス、ミサイル誘導システムなど)の基準を満たし、それらに採用されました。冷戦に対応するため、軍需関連の請負会社からの受注として、フェアチャイルドの売上は、1958年には50万ドル、1959年には700万ドル、1959年には2100万ドルに達しました。

図1 プレーナ型トランジスターへのピボットで成功を収める
図1 プレーナ型トランジスターへのピボットで成功を収める

 1960年の終わりには、フェアチャイルドは半導体の分野で業界首位になりました。会社が創業されてから3年以下で、技術プロセスをピボットし、セールス部隊は素晴らしい顧客発見の成果を上げ、市場でのスイート・スポットを発見し、工場はトランジスターとダイオードの製造でフル稼働していました。