無線LANの電波ってどこまで飛ぶの?

(イラスト・アニメーション:岸本 ムサシ)

  今回の回答者:
長谷 良裕
ワイヤレスデザイン代表
工学博士

 理想的な状態では相当飛びます。無線LANで47km離れた区間の通信に成功した例も報告されています。そもそも「電波が飛ぶ」距離とは、電波を送る側と受ける側の機器間(送受信局間)の距離を指します。そして理想的な状態とは、送受信局間に何の遮へい物もなく、見通しのよい状態のことをいいます。

 「電波が届かない」のは「電波が弱い」からです。電波の強弱は、受信機の入力電圧(dBμV/デシベルマイクロボルト)もしくは受信電界強度(dBμV/m/デシベルマイクロボルトパーメートル)で示しますが、これらは距離が遠いほど小さくなります。距離と電波の強弱の関係は、周波数、送信局出力(dBm、mW)、アンテナ性能(利得、dBi)から計算できます。IEEE802.11b/g/nの無線LANの場合、共通に用いられる周波数は2.4GHz帯。送信局出力は、無線LAN機器の場合は「特定小電力機器」として法令で10mWに定められています。そのため電波が飛ぶ距離は3番目のアンテナ性能に依存することになります。前述の47kmという例は、性能のよい特別なアンテナを使ったケースです。

 市販のノートパソコンなどの無線LAN機器の場合、理想的な状態でアクセスポイントのアンテナ利得が高ければ、1k~2km程度は電波が飛びます。最近は機器の小型化などで指先程度の大きさのチップアンテナを内蔵する無線LAN機器が増えています。小型化でアンテナの利得を上げるのが難しくなり、利得がマイナスになることもあります。それでも数十mから100m程度は飛びます。

 「無線LANにつながらない」ことと「電波が届かない」ことが混同される場合もあります。ユーザーからすれば、どちらも無線LANに「接続できない」現象ですが、例えば干渉でつながらない場合でも、電波は届いています。受信機はアンテナから信号を受けるだけなので、干渉波と本来受けるべき電波を区別できません。つまり信号を復調できないから「つながらない」のであって、電波は届いているのです。