田中淳子氏と芦屋広太氏によるヒューマンスキル往復書簡は第9回を迎えます。田中氏の「自分の行動はみずから選べる」という言葉を受けて、芦屋氏が「正しい他人の頼り方」を取り上げます。他人に頼るやり方には「正しい」ものと、「間違った」ものがあるといいます。(編集部)

淳子さんへ

 「自分は他人に動かされている。思い通りにならない」と捉えずに、「自分の行動はみずから選べる。自分自身で自分を変えることができる」と考える---。前回(考え方も行動も「自分で選べる」)を読みながら、「話題がヒューマンスキルの本質に近づきつつある」と感じました。

 自分自身で自分を変えることができるという考え方は、本人が成長するうえで、とても必要なことです。ただ、もしかすると、「すべてを自力でやらなければいけないのか。それはちょっとつらいな」と受け取ってしまう人がいるかもしれません。人によって程度の差はあるでしょうが、「ここは自分で決めなくてもいい。だれかに決めてもらったほうがラクだし、それで特に問題はない」という部分もあるものです。

 みずから選んでいくとともに、他人の力をうまく使いながら、自分を高めていくことも必要ではないか。私はこう考えています。今回は、自分がいろいろなことを決めていく上で、どのように他人の力を借りればよいかを取り上げてみたいと思います。

「逃避」か「克服」か

 仕事をしていくうえで、多くの困難に遭遇するのは珍しくありません。「自分はこうしたいのに、上司から反対される」「後輩が動いてくれない」「取引先からトラブルの連絡が入る」といった具合に、自分の思うように物事が進まないこともよくあります。誰もがこうした経験を持っているでしょう。

 このような“壁”にぶつかったとき、ほとんどの人は不快感を覚えます。多くの場合は、「やだな」「ひどい」「何で私が」などと悩みや迷いが付いて回ります。

 そういう人は、次に不快感を解消するための行動を起こします。心理学の世界では、これを「認知的不協和の解消行動」と呼ぶそうです。

 では、実際にどのような解消行動を採るのでしょうか。筆者の経験では、大きく二つに分かれます。一つは私が「逃避」と呼ぶ行動、もう一つは「克服」と呼ぶ行動です。どちらを選ぶかが、その人の成長を決定づける大きな要素となります。

 「逃避」は物理的あるいは心理的に、その状況から逃げることを指します。物理的逃避は分かりやすいでしょう。では、心理的逃避とはどういう状況を指すのでしょうか。私の定義では「言い訳をして、自分は悪くないと思う」ことをいいます。

 心理的逃避を選ぶ人は、すべての行動が受け身になります。「だれかが言うから、やっているだけだ。失敗しても自分の責任ではない」と思いながら行動するようになるからです。

 しかもその状態を放置しておくと、逃避のレベルが深刻になる恐れがあります。「どうせ、うまくいきっこない」「自分には関係ない」などと常に考えるようになってしまうのです。こういう状態が、淳子さんが言う「自分で自分の行動を決められない」ではないでしょうか。

 これに対し、もう一つの「克服」は、「壁を乗り越える」行動を指します。課題に向き合い、どうしたら克服できるかを考え、解決する。そうすることで、不快感を解消していくわけです。当然、「克服」を選ぶ人が成長するのは言うまでもありません。