包括利益は資産の変動の影響を受けることから、IFRS(国際会計基準)を代表する概念の一つと言われている。包括利益によって何が分かるのか。上場しているITベンダーの売上高上位15社における11年3月期決算の数値を基に、包括利益の意味を探る。

 なぜ当期純利益と包括利益に差が生じる企業があるのだろうか。疑問を解くカギは、包括利益とともに財務諸表に表示する「その他の包括利益」にある。

図●「包括利益」の概要
図●「包括利益」の概要
エトキ
[画像のクリックで拡大表示]

 包括利益は、当期純利益とその他の包括利益の合計で表す()。ここで利用する当期純利益は、連結子会社などの損益を含んだ金額となる。その他の包括利益は複数の項目で構成しており、内訳から当期純利益と包括利益の差が生まれた要因が見えてくる。

 ISIDのその他の包括利益の項目を見ると、「その他有価証券評価差額金」を5億7300万円計上している。もう一つの主要な項目である「為替換算調整勘定」はマイナス1億1100万円だ。二つのほかにその他の包括利益の項目を合算すると、4億6100万円のプラスで当期純利益の赤字幅を上回る。

 ISIDの連結子会社などの損益を含む当期純損失は1億5600万円。結果として、包括利益は約3億円の黒字になったのである。

持ち合い株や海外子会社が影響

 「その他の包括利益が示す数値は、経営者の意思決定にかかわっていない。ここが従来の利益の考え方と大きく異なる」と、監査法人トーマツIFRSアドバイザリーグループの北潟将和シニアマネジャーは説明する。

 その他有価証券評価差額金は、取引関係の維持や企業グループの形成といった投資以外の目的で保有する持ち合い株を時価評価した金額だ。前年度からの変動分を計上する。「持ち合い株が多い企業の場合は影響を受けやすい」(北潟シニアマネジャー)。

 為替換算調整勘定は、海外子会社の資産を評価する際に為替の変動によって発生する前年度からの差額を計上する。「現在は円高傾向が続いているので、多くの企業で為替換算調整勘定はマイナスになっている」と北潟シニアマネジャーは説明する。為替換算調整勘定は海外子会社の数などによって、大きく変動することになる。

 ISIDの場合、その他有価証券評価差額金が大きく増えている。持ち合い株として保有する株の価値が上昇したことが推測できる。為替換算調整勘定がマイナスであることから、海外子会社の評価損が発生していると分かる。

包括利益はリスクを表す

 包括利益によって何が分かるのか。北潟シニアマネジャーは「企業が抱えるリスクを把握しやすくなる」と話す。海外に進出している企業や持ち合い株の多い企業ほど、包括利益の変動幅が大きくなるからだ。

 ただし北潟シニアマネジャーは、「リスクを取るかどうかは企業の方針なので、金額の多寡だけで判断してはいけない」と指摘する。包括利益に注目する際は、有価証券報告書などを通じて開示している企業のリスクに対する方針にも、同時に目を向けることが欠かせない。