2011年3月期の決算から上場企業の連結財務諸表に「包括利益」の表示が義務付けられた。日本の会計基準とIFRS(国際会計基準)との差異をなくす取り組みであるコンバージェンスの一環だ。ITベンダーの包括利益からその意味を探る。

 IFRS(国際会計基準)そのものを日本の会計基準(日本基準)として採用する強制適用の延期が話題になる一方で、着実に進んでいるのがコンバージェンス(収れん)である。

 2007年に始まったコンバージェンスは、日本基準とIFRSとの間にある違いを、日本基準を変更することで解消する取り組みだ。IFRSとの違いが大きい項目については、11年6月までに日本基準の変更を終えると決めていた。

 IFRSと日本基準との違いが大きかった項目の一つが「包括利益」だ。11年3月期から連結財務諸表に表示が義務付けられた。

 財務諸表で扱う利益としては、本業のもうけを示す「営業利益」、営業利益に本業外での損益を加えた「経常利益」、経常利益から特別損益や税金などを調整した「当期純利益」などがある。

表●上場しているITベンダー上位15社の2011年3月期連結決算
表●上場しているITベンダー上位15社の2011年3月期連結決算
包括利益の表示が新たに加わった(カッコ内は各項目の順位)
単位:億円
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 包括利益は、これらと異なる新しい利益の概念だ。持ち合い株の評価損益など、貸借対照表に計上する項目である資産の変動を利益に加えて算出する。貸借対照表を重視するIFRSならではの考え方といわれている。

 上場しているITベンダーの売上高上位15社における11年3月期決算の数値()を基に、包括利益の概要を見ていく。

包括利益で黒字転換のケースも

 包括利益は当期純利益を基にして計算する。そのため表では、当期純利益の順位と包括利益の順位はほとんど変わらない。

 ところがNECネッツエスアイとNECフィールディングを比べると、当期純利益はNECネッツエスアイが3000万円上回るのに対し、包括利益はNECフィールディングが2億6000万円大きい。電通国際情報サービス(ISID)は、当期純利益は1億3200万円の赤字だが、包括利益は約3億円の黒字である。