「困難な状況を乗り切ったとき、私は大きく成長した」。日本のIT史上に名を残すシステム開発を統括した伝説のリーダーたちは、こう口をそろえる。今回は、NTTデータ顧問の重木昭信氏の経験談を紹介する。
NTTデータ顧問の重木昭信氏は、国内最大級のバンキングシステムである郵貯システムを長年手掛けてきた。なかでも、1995年に刷新したシステムは、NTTデータ(当時の社名はNTTデータ通信)の歴史に残る大プロジェクトだった。
このプロジェクトは3000人の動員が不可欠だった。無謀と言われたこのプロジェクトに重木氏は立ち向かう。プロジェクトを手掛けるに当たり、独自のマネジメント理論「おにぎり崩壊理論」を考案。未経験の案件を乗り切るために、仮説を立て、その仮説を想像力で補った。
先輩プロマネたちが無理だと苦言
「3000人のプロジェクトなんてできるわけがない」。1988年、第3次郵貯システムを任せられた重木氏(当時37歳)が、先輩のプロジェクトマネジャーに報告すると、先輩はこう答えた。
同社で構築実績があったプロジェクトは1000人規模まで。しかも、非常に苦労したことで有名なプロジェクトだった。「1000人であの有様だったのだから、3倍の3000人など無理だ」。先輩の忠告はこういう理屈だった。
少なくとも自社では初めてであり、おそらく国内でも有数の巨大プロジェクトを率いる。このプレッシャーが、当時部長職だった重木氏が直面した困難だった。
プレッシャーと不安に押しつぶされそうになった重木氏は「感情的なっても仕方ない」と思い、理詰めで考えることにした。「このように進めれば3000人のプロジェクトでも大丈夫だ」と、安心するための根拠を見つけようと思った。そこで重木氏はマネジメント理論そのものから作り出すことにした。「3000人のプロジェクトでは、これまでの常識は通用しない」と考えたのだ。