クラウドはそもそも、ユーザーのシステム運用負荷を下げられることがメリット。そのため、信頼性についてはある程度の割り切りが必要だ。それでも、クラウドの仕組みを知って、起こりうる障害に明示的に手を打てば、大きなトラブルを避けることができる。
これまで述べてきたように、クラウドの障害は「ストレージ障害」「仮想マシン障害」「データセンター設備障害」の三つに分類できる。利用者はこれらの障害が発生することを前提として、障害予防策を講じるべきだ。
例えば、ストレージ障害に備えて、データを定期的にバックアップする。仮想マシンの障害に備え、あらかじめ仮想マシンを複数台用意してクラスター構成にしておく。このような構成にしておけば、仮想マシンが異常終了した場合でも、別の仮想マシンに処理を引き継げる。データセンターの設備障害に備えるなら、異なるデータセンターにデータをバックアップしておく。
EC2は障害対策機能が豊富
IaaSやPaaSといったタイプのクラウドサービスの中には、ユーザーが利用できる障害対策機能をあらかじめサービスとして提供しているものがある(表1)。こうした機能を使えば、少ない労力でトラブル予防策を実施できる。
「多くのIaaSの中でも、最も豊富な障害対策機能を備えている」(TISの社内ベンチャーであるSonicGardenでインフラ運用を担当する安達輝雄氏)と目されているのは、IaaS大手の米アマゾン・ウェブ・サービシズが提供する「Amazon EC2」だ。
EC2では、仮想マシンのデータを複数の方法でバックアップできる(図1)。まず、EC2とセットで使う外付けストレージサービス「Amazon EBS」は、バックアップを即座に作成する「スナップショット」という機能を備える。
アマゾン・ウェブ・サービシズの別のストレージサービスである「Amazon S3」も、仮想マシンのバックアップ用途で使える。S3は、障害に備えてデータのコピーを作成する数がEBSよりも多いため、EBSに比べてデータ喪失の危険性が低い。
SonicGardenが2011年4月のEC2障害の最中、影響を受けた仮想マシンをすぐに別の「アベイラビリティー・ゾーン(AZ)」で再起動できたのも、データをS3にバックアップしていたからだ。AZとはEC2におけるデータセンターの単位のことで、AZごとに電源供給やネットワークの系統が異なっている。
仮想マシンは、アマゾン・ウェブ・サービシズが提供するロードバランサーのサービス「Elastic Load Balancing」を使って、AZをまたいでクラスター構成にできる。
EC2を使ったシステム構築を手掛けているシステムインテグレータ、サーバーワークスの大石良社長は、「データをアマゾン・ウェブ・サービシズの異なるデータセンターにバックアップするのが、最も信頼性が高い対策だ」と語る。東京にあるデータセンターのデータを、シンガポールのデータセンターにバックアップしておけば、東京に大規模な災害が発生したような場合の備えにもなる。
サーバーワークスは2011年秋に、EC2の仮想マシンのデータを異なるデータセンターにバックアップするツールをリリースする予定。「EC2の東京データセンターからシンガポールのデータセンターにバックアップする場合、20Gバイトのデータを5時間で転送できる」(大石社長)という。
国産のIaaSも、障害対策機能を充実させ始めている。ニフティはIaaS「ニフティクラウド」で2011年9月から、バックアップなどに利用できる安価なストレージサービス「ニフティクラウドストレージ」を提供開始。ロードバランサーも、多くの国産IaaSが備えつつある。
IDCフロンティアは2011年7月から、IaaS「NOAHプラットフォーム」でデータセンターをまたいだバックアップを開始した。同サービスのデータセンターはこれで、首都圏と北九州市の2カ所になった。首都圏データセンターのバックアップサーバーを、北九州市データセンターに用意できる。