意思決定者が必要とする高品質な情報を収集し提供するには「データマネジメント」が必要になる。国際団体DAMAが『DAMA-DMBOK Guide』と呼ぶ知識体系をまとめており、このほど邦訳書籍『データマネジメント知識体系』が出版される。本稿はデータマネジメントとDMBOK Guideの意義を解説する。前編は経営者や管理者がかかわる上流工程について説明する。

 以下の問題が会議で報告されたとする。

 「3カ月も連続で売り上げが落ちています」
 「納期遅れの件数が異常に増えました」
 「プロジェクトの顧客満足度が上がりません」
 「材料の購入価格が15%も上がっています」
 「キャッシュフローの余裕がなくなってきました」

 報告を聞いた上司はすぐ決断を下す。

 「だから言ったんだ。毎日最低5件は顧客回りをしろと」
 「たるんでいる。気を引き締めてくれ」
 「プロジェクトマネージャに注意し、満足度を上げさせろ」
 「ベンダーをもっと叩け」
 「支払条件を守らない顧客に毎月督促しろ。俺は明日から銀行回りだ」

 そういうことでなんとかならないから相談しているのだと言うと上司は声を荒げて言い切る。

 「とにかく頭を下げてこい。がんばれ。ここは我慢だ。努力が足りない」。

 見慣れた風景かもしれない。多くの企業や組織が陥りやすい罠である。はたしてどこがいけないのか列挙してみよう。

・問題点の発見から対策にいきなり飛んでいる。
・対策が複数あるかもしれないのに代案が提示されていない。
・対策の目標値が設定されておらず対策の進捗を評価できない。
・そもそも問題点を正確に把握していない。

 まず、問題点と言われているものがどのように発見されたのかの検証が必要である。もし「問題のような気がする」「誰かがそう言った」「そうに決まっている」ということであれば情報の信憑性そのものが疑われる。

 存在するかどうかさえわからない、正体がわからない問題に対して、過去の経験だけからいきなり対策を決める。指示された側も、とにかくやってみようなどという。ともに危険である。

 検証した結果、どうやら問題が本当に存在していたとしよう。対策に乗り出す前に問題を分析してみないといけない。その上で対策の案をいくつか策定し、どの案を実行するか意思決定する。

 意思決定をしたら実施あるのみだが、それで終わりではない。結果を評価し、そこに問題があれば再び分析、対策案を策定、意思決定へ、というプロセスを繰り返す。以上は一般に問題解決プロセスと呼ばれるものである。

 冒頭に紹介した例は一連のステップが完全に省かれている。しかも問題発見から意思決定に至るまで客観的情報が全く使われていないことにお気づきだろうか。

 このため問題の原因はどこにあり、対策がどのように問題を解決するのかを示す論理がない。客観的なデータや情報がなければ論理は組み立てられない。