第1回の後半で、「復興ICT政策」本番となる2012年度は、政策に深く関わって斬新な提案ができ、かつ自治体営業の強いITベンダーが有利だと述べた。これを受けて第2回では自治体クラウドの動向などを論じたが、ほかにも自治体関連で従来と異なるビジネスモデルが生まれる可能性がある。ビジネスモデルと組織的課題の観点から、復興ICT関連市場の勝ち組ベンダーになる条件を解説する。

 復興ICTでIT業界に求められるビジネスモデルの変化を端的に示したのが、日本IBMが宮城県仙台市でシャープ、カゴメ、ヨークベニマルなど約20社と開始する、野菜工場を中心としたエコタウン構想だ。仙台市の沿岸部にある若林区で津波の被害を受けた農地に野菜工場や加工工場を作って野菜を栽培・加工し、ヨークベニマルやセブン・イレブン・ジャパンを通して販売する。工場の電源にはシャープの太陽光パネルを活用してエコタウンとする約100億円の構想だ。農地の工場転用には特区が活用されるだろう。

図1●仙台市でのビジネスモデル
図1●仙台市でのビジネスモデル

 IT企業としての日本IBMのビジネスはそれほど巨額にはならないだろうが、三井物産や伊藤忠商事など総合商社、カゴメのような食品加工業者、シャープのような自然エネルギー関連企業、それに現地の農業生産法人や小売りといった異業種の集まりである点が注目される。このような実績を積み上げて大きなビジネスに育て、「スマートシティ」などのブランドを強化するのが日本IBMの目的だろう。

 2011年8月25日に日本電気(以下、NEC)が発表した、津波の塩害に悩む農地の土壌改良も、まだ自治体との本格的な提携は発表されていないものの、新たなビジネスモデルとして面白い。塩害土壌改良材を販売する京都府の会社、マイファームを巻き込んでNTTドコモの環境センサー/ネットワークとNECの農地センサーを組み合わせて土壌改良を「見える化」するという業務提携だ。

図2●塩害農地復興のビジネスモデル
図2●塩害農地復興のビジネスモデル

 自治体にとって復興事業とはまさにこのように総合的で、多くの業種が関わる事業なのである。このような事業は復興が本格化する過程で数多く登場するであろう。第2回でも「クラウドにつながり得る財源」として触れたように、第3次補正予算で自治体への一括交付金は1.7兆円ある。また、特区制度を使えば様々な事業が可能となる。このような復興事業の場合、自治体が復興計画を策定して予算要求する手順となっている。

 これまでもアウトソーシング事業でITベンダーがICT色の薄いプロジェクトに関わるケースが見られたが、これは異業種の絡む総合的な復興事業としてビジネスモデルが異なる。このような総合的な復興事業は仙台市での日本IBMの事例のように100億円規模となるので、大手各社は狙うに違いない。さほどICT色が強くないプロジェクトであっても、総合商社のようなプロジェクト管理能力とファイナンス力を発揮して元請けになれれば全体として大きな売り上げを計上できる。