スマートフォンやタブレット端末を遠隔で管理する「MDM(モバイルデバイス管理)」は、企業にとって不可欠な仕組みになりつつある。情報システムの端末としてスマートフォンやタブレット端末を活用するなら、端末の管理が重要になるからだ。

 ここへきて、MDMに二つの大きな動きがある。一つは、ウイルス対策ソフトや業務アプリケーションが、端末管理機能の一部を搭載し始めたことだ。従来のMDM製品/サービスと比べ機能は絞られるが、追加のコストをかけずに端末を管理できる。

 もう一つは、携帯電話事業者自らが、MDMサービスを提供し始めたことだ(表1)。スマートフォンの運用管理業務ごと受託する。従来のMDM製品/サービスは管理用のソフトを提供するだけだったが、事業者のMDMサービスは、運用管理業務すべてをサービスとして請け負う。

表1●携帯電話事業者やグループ会社が提供するMDM(モバイルデバイス管理)サービス
表1●携帯電話事業者やグループ会社が提供するMDM(モバイルデバイス管理)サービス

 これまで企業がMDMを実現するには、ITベンダーが提供する専用のソフトウエア製品やサービスを利用したり、自社で管理の仕組みを構築したりするのが一般的だった。実際、前述したガリバーインターナショナルやサントリーは、どちらもMDMシステムを既に利用している。前者はアイキューブドシステムズのMDMサービス「CLOMO MDM」を、後者は自前でMDMシステムを構築し、端末を管理している。

 新型サービスが登場してきたことで、企業にとってはMDMを実現する選択肢が増えたことになる。「専用システムは持ちたくない」「端末管理業務は外部に任せたい」といったニーズにも応えられるようになってきた。

 企業は自社の業務や運用体制に合ったMDMを実現するべく、製品やサービスを慎重に吟味する必要がある。あるMDMサービスを全面的に利用することで、導入可能な端末が限られるケースもあるので要注意だ。

ウイルス対策ソフトで端末管理

 端末で使うアプリケーションや扱う情報の重要度がそれほど高くない場合は、端末管理に専用の仕組みまでは必要ないと考える企業もある。紛失や盗難への対策や、利用状況の確認ができればよいとの判断だ。

 そういったニーズを想定し、セキュリティ対策ツールや業務アプリケーションに、端末管理の機能を組み込んだ製品が登場している。特に、セキュリティ関連製品では、紛失・盗難対策の機能を提供するケースが増えている。

 エフセキュアが2011年7月に販売を開始したAndroid用ウイルス対策ソフト「エフセキュア モバイル セキュリティ ビジネス」は、ウイルス対策機能に加えて、サービス型の端末管理コンソールが利用できる。IT担当者はこのコンソールを操作し、同社のエージェントをインストールした端末に対して、リモートロック、リモートワイプ(データ消去)などのコマンドを送信できる。既に資産管理システムを運用している企業には、連携するためのAPIも提供する。

 業務アプリケーションにも、一部で同様の動きがある。スマートスタイル、フィードテイラー、住友セメントシステム開発が共同で提供している文書管理サービス「SYNCNEL for Enterprise」は、その一例だ。iPhoneやiPadをユーザー情報とひも付けて管理できるほか、盗難・紛失時に端末内のデータを消去することも可能だ。

 こういった簡易な端末管理機能を備えているかどうかも、スマートフォン向けソフトを選ぶ際のポイントになりそうだ。