「悪気がナイ!」トラブルとは,主にうっかりミスによって引き起こされたものを指す。人間誰しも,うっかりミスを起こす可能性はある。つまり,このトラブルは誰にでも起こり得る厄介なものだ。ユーザーの「親切心」があだになるケースもあり,そこにネットワーク管理者の知識・認識不足が見え隠れする。
具体的には,「知識のないユーザーが勝手に機器をいじった」,「管理者の技術的な知識が不足」,「管理対象となるネットワークを把握しきれていない」---などのケースが見られる。
●最新の機器やソフトに関して管理者の知識が不足
●担当のネットワークに対する状況把握が不足
新機能でループ接続が有効に
まずは,LANスイッチを新しい機種に置き換えたら通信ができなくなってしまった事例を見てみよう。ある教育研修機関で,ネットワーク機器を更改した。すると,LANスイッチを置き換えた直後からLAN内のグループウエアが使えないというトラブルが起こったのである(図1)。
トラブルの原因は,ループ接続によって「ブロードキャスト・ストーム」が発生したことだった。ブロードキャスト・ストームでLAN内の通信が不安定になり,グループウエアが使えなくなったのだ。
この事例でブロードキャスト・ストームが発生した理由は二つあった。順に見ていこう(図2)。
第1の理由は,最初からLANスイッチ間がループ接続だったというものだ。ループ接続とは,LANスイッチ間を2本のケーブルで接続して,通信経路をループ状にすること。この接続で,ブロードキャスト・ストームが発生する前提が整う。
しかし,これだけではブロードキャスト・ストームが発生した説明にならない。なぜなら置き換え前と置き換え後で,LANスイッチ間のケーブル配線は同じだからだ。なぜ置き換え前に発生しなかったのか? ここで第2の理由が出てくる。第2の理由を理解するため,ここでLANケーブルとLANスイッチのポートには種類・種別があることをおさらいしよう。
LANケーブルの種類にはクロス・ケーブルとストレート・ケーブルがあり,LANスイッチなどのネットワーク機器のポートの種別にはMDIとMDI-Xがある。この事例では,ループ接続の個所でストレート・ケーブルが使われていた。ストレート・ケーブルで二つのLAN機器間の通信ができる(リンクする)ようにするには,一方の機器でMDIポートを,もう一方の機器ではMDI-Xポートを使わなくてはならない。MDIポート同士,MDI-Xポート同士ではつながらない。
実は今回の事例で置き換え前のLANスイッチ同士をつないでいたポートは,双方ともMDI-Xポートだった。このためループ状に接続されていても,データは流れない。つまり,ブロードキャスト・ストームは起こらなかった。
しかし,置き換え後の新しいLANスイッチには,双方とも「オートMDI/MDI-X」機能が付いていた。これは,ストレートやクロスといったLANケーブルの種類や,MDIやMDI-Xといったポートの種別に関係なく,ケーブルでつないだ機器間を自動で通信可能な状態にする機能だ。
もうおわかりだろう。第2の理由は,新しく設置したLANスイッチにオートMDI/MDI-X機能が備わっていて,ループ接続の個所が「有効」になったことだった。
この事例では,ループ接続のケーブルを外し,今後はケーブルの管理を心がけることで解決した。つなげばすぐに通信できるオートMDI/MDI-X機能は親切な機能だが,こういった「悪気がナイ!」トラブルを引き起こす可能性を持っている。
ループ接続の理由の多くに,「LANケーブルの先が落ちていたので,そばにあったLANスイッチに挿してあげた」というユーザーの「親切心」がある。このパターンは非常に多い。ループ接続について知識がない人が,良かれと思ってやった「悪気がナイ!」行動だ。ネットワーク管理者としてはケーブルの管理を徹底すべきで,そのようなつなぎ方が事故になることをユーザーに啓蒙(けいもう)していかなくてはならない。
またこの管理者にオートMDI/MDI-X機能の知識があれば,LANスイッチを導入する際に注意しただろう。ネットワーク機器の機能は進化し続けている。どのような機能を搭載しているかを理解できるよう,最新の知識を身に付けるようにしたい。