iPhoneの登場によって自社のビジネスを大きくスマートフォン寄りに舵を切った企業がある。フライトシステムコンサルティングはそんな企業の一つ。精力的にiPhone向けソリューションやスマートフォン向けアプリを提供している。同社代表取締役社長の片山圭一朗氏に、スマートフォンへ事業の軸足を移した理由などを聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro


フライトシステムコンサルティング 代表取締役社長 片山圭一朗氏
フライトシステムコンサルティング 代表取締役社長 片山圭一朗氏

 もともと我々は放送、自治体、金融など、分野は違うが止まってはいけないシステム、例えばデジタル放送のサーバーの構築などを事業としてやってきた。ここ3年、世の中の潮流が変わり始めてきたのを肌で感じ、スマートフォン関連事業に大きく舵を切った。

 3年ほど前、クラウドが騒がれ始めた時期だった。確かに安いアウトソースの手段だが、当初はこんな半端なものを誰が使うのだろうと思っていた。だが、お客さんが注目し始めている。自分でシステムを持ちたくない、というお客さんが検討し始めていた。

 クラウド化が進むと、ローカル側の性能はあまりいらなくなってくる。例えば検索の処理はクラウド側のエンジンで処理している。こうなるとローカル側に大量のリソースを持つパソコンがだんだん負担になってくる。「もうPCの役目は終わった」とアップルのスティーブ・ジョブズ氏も言っていたが、そうなる予感が数年前からあった。

実証実験でスマートフォンの普及を確信

 我々はデジタル放送のシステムにずっと携わってきた。日本のデジタル放送の仕様は、米アップルのQuickTimeがベースになっている。我々は2001年から米国のアップル本社に通いつめてQuickTimeの技術を学んだ。そうやって毎年の進化を見ていくと、同社が進もうとしている先も分かってくる。

 iPod Touchが出た段階で次は電話が出ると思った。そしてiPod TouchのOSはMacOSと同じ。つまりベースはUNIX。手のひらに乗るUNIXマシンだ。ちょうどお客さんがクラウドに移行し始めた3年くらい前に、iPod Touchが発売され、手のひらに載るUNIXマシンが現実になった。当時、アップル日本法人の関係者などと議論して、これでもっといろいろなことができるのではないかと考えた。福岡市の天神・大名という繁華街に安い無線LANルーターを街中に設置させてもらい、iPod Touchを持っていればいろんな情報が飛び込んでくる、という実証実験をやった。2008年のことだ。

 実験に当たって、新聞、コミュニティーFM、iPod Touchの三つを組み合わせると人の行動パターンを変えられるのではないかとの仮説を立てた。新聞で事前告知、FMで放送し、実際にその近くを通ると情報がiPod Touchにプッシュで送られてくる、という内容だ。本当にスマートフォンの時代が来るかそこで試していた。

 当時のiPhone 3Gは今のiPhone 4に比べるとCPUパワーも半分以下。それでも相当なことができた。我々は飲食店の紹介やライブハウスの紹介などをやった。そしてかなりのことができると確信した。クラウドの利用は以前はネットワークが遅かったが、今は十分速くなり現実的になった。PCの時代ではなくなると感じ、大きく舵を切った。

 今でもデジタル放送の事業は継続している。だが2年前にスマートフォンに大きく舵を切ることを会社として決断した。財務的には2期赤字を出しているが、これはある程度覚悟していたこと。既存事業はこれ以上広げず、新規事業を立ち上げるということでスマートフォンの世界に来た。