スマートフォンはSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)との相性がよい。通信圏内にいれば、いつでもどこでも自分の知りたい情報を調べられるだけでなく、FacebookやTwitterを通じて自ら情報を発信することができる。情報量もさることながら、情報の取り扱いについても、これまでの常識が通用せず、考え方そのものが変わりつつある。それが社会にどのような影響を与えるのだろうか。「ジョン・キムのハーバード講義:逆パノプティコン社会の到来」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者であり、気鋭のメディア研究者である慶應義塾大学 政策・メディア研究科 准教授のジョン・キム氏に聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro


慶應義塾大学 政策・メディア研究科 准教授 ジョン・キム氏
慶應義塾大学 政策・メディア研究科 准教授 ジョン・キム氏

 スマートフォン普及の背景にあるパラダイムを構成する要素は三つある。まず「スマートデバイス」の登場。スマートフォン、タブレットだけでなく、スマートテレビ、そしてパソコンもそのなかに含まれるだろう。

 次に「モバイル」が前提になること。もちろん家でパソコンを使うこともあるが、外でネット環境に接続しているのが当たり前になりつつある。パソコンだけで完結するようなサービスだとユーザーを引き付けられない。サービスに対するスティッキネス(「一度くっついたら離れない」の意)を考えるとモバイル対応はデフォルトになる。

 三つ目が「ソーシャル」。TwitterやFacebookといったソーシャルメディアが主流になってきている。これもスマートフォンの利用を促進する要因だと思う。ユーザーがネットを使う時間のなかで、Googleでの滞在時間より、Facebookでの滞在時間のほうが長いという統計も米国で出ている。ソーシャルメディアがデバイスを手放せなくした。

 デバイスは家だけでなく、外でもつながるようなシームレスコネクションが求められ、さらに、マルチメディアを扱えて様々なサービスを使えるようなスマートなものでなければならない。スマートフォン普及の背景の流れはこのようにまとめられるだろう。

情報の透明性が高まり、完全透明化の社会になってくる

 「スマートデバイス」「モバイル」「ソーシャル」が混合して新しいパラダイムを作りだすとき、そのキーワードの一つとして透明性が高まることが挙げられるだろう。ある意味では完全透明化の社会になってくる。よくある構図として、政府が市民を監視することに対して、中東諸国で見られたように市民側が政府や大企業を監視するツールとしてネットやITを使い始めたという側面がある。

 その次のフェーズに進むと、全員がパノプティコン(全展望監視システム)であるという状態が成立する。実際今、SNSでは自らプライバシーを犠牲にするというか、得られるものが大きいため自分からどんどん情報を発信する傾向がある。デジタルネイティブ世代になると公開が当たり前という意識を持っている。プライバシーというよりは、情報を出すことを前提に、すべての言動を行う時代になると思う。

 そうなるとすべての人々のすべての情報が、結果的に社会から見ると透明化していく時代になる。完全透明化を前提とした人々の日常のコミュニケーション、エンターテインメント、ビジネスのトランザクション、行政サービスなどが求められていく。ネット社会に参加する利用者としても、完全透明化以前と以降においてはすべてが変わる。これを前提にした対策や対応が必要になる。