スマートフォンを語るうえで、米アップルのiPhoneは欠かせない。iPhone登場の前と後で市場が大きく変わったからだ。現在、誰もがイメージするスマートフォンの形状や操作感は、その基本にiPhoneがあると言っても過言ではない。それでも、情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 主任研究員の岸田重行氏は、「日本はiPhone不毛の地ともいえる」と述べる。同氏にiPhone後のスマートフォンの世界、注目すべき動きなどを聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro


情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 主任研究員 岸田重行氏
情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 主任研究員 岸田重行氏

 スマートフォンの定義はいろいろあるが、やはりiPhoneからすべてが始まっているという捉え方をしている。スティーブ・ジョブズ氏がiPhoneを発表したときに、「携帯を再定義する」と言ったと思うが、本当に再定義されてしまった。世の中のメーカーもユーザーも、「スマートフォンとはああいうものだ」と理解した。Androidの存在は、iPhoneがあったうえでのものだ。

 まず形。そして性能、機能、そこから実現できる利用シーン、ユーザーエクスペリエンス…。見た目が変わって「かっこいい」といった話ではなく、iPhoneが出てきて実際に操作して感動した、というその体験がユーザーエクスペリエンス。それに皆が乗っかっているのが今のスマートフォンの市場だと思う。

 スマートフォンの定義とされる「アプリを自由に追加できる」という点でいえば、日本はまれな市場で、元々携帯電話でアプリを利用する文化があった。ただ、フィーチャーフォンでのこうしたアプリの利用環境は、いまどんどんスマートフォンに移行してきている。例えばディー・エヌ・エー(DeNA)やグリー(GREE)などは従来のフィーチャーフォンでやっていた利用シーンをスマートフォンにどんどん移行させ、軸はスマートフォンになっている。

今は日本独自のものも使えて、世界のものも使える

 端末で言うと、日本の端末メーカーは携帯電話事業者と作り込みをするため、日本のメーカー製スマートフォンが世界からかい離していくというところは多少はある。おサイフケータイが使えるとか、iチャネルが使えるといった点だ。ただしこれらはスペシャルな機能。アプリは、基本的には世界で普及しているものと同じ。スマートフォンは、世界のものも使えて、日本独自のものも使えるという話で、日本に閉じているわけではない。

 日本だけでなく、海外でも端末に作り込みをするという動きがないわけではない。例えばフランスの携帯電話事業者であるオレンジは、日本で言えばKDDIの「INFOBAR A01」のオリジナルUIやNTTドコモの「Palette UI(パレットUI)」のような、独自のユーザーインタフェースを作っている。通信事業者としてスマートフォンの利用シーンを工夫していこう、という動きはこのように海外にもある。ただ、それをできる携帯電話事業者は大手に限られる。

 メーカーでもユーザーインタフェースに取り組むところはずいぶん前からある。台湾HTCであり、韓国LG電子であり、韓国サムスン電子がそうだ。メーカーがアプリを前面に出したり、UIを出したりして、独自色を出して差異化していこうと試みている。

 スマートフォンになると、アプリのレベルで利用シーンが決まっていく。アプリは短期的にはOSに縛られる。そのなかで結果的にAndroidが選ばれた。Androidが優れているかどうかではなく、みんながそれを選んでいるから選ぶ。ほかと違うものを選ぶメリットがない。その状況が続いている。今のところ、この構図は変えられない。