2011年、スマートフォンが携帯電話市場を席巻している。従来型携帯電話を押しやり、個人が持つ情報機器の主役に躍り出ようとしているのだ。その勢いはパソコンをも凌駕し、企業での導入も進みつつある。この連載は、ITpro EXPOに合わせて発行したITpro eMagazine 2011年秋号に掲載した「スマートフォンのなぜ・いま・これから」の転載である。様々な知見を持つ方々の談話で構成している。

 スマートフォンは個人にとっても、企業にとっても、少なくともこの先数年は情報機器の主役として付き合っていくものになるだろう。ただ、漠とそう思っているだけだと実際の利活用時に何か引っかかって先へ進めないことがあるかもしれない。普及期に差し掛かったこの時期だからこそ、スマートフォンが普及する背景にある考え方や諸事情を知っておくことが、スマートフォンの利活用や、企業で導入する際にきっと役に立つと考えている(編集部)。


 これからのスマートフォンの市場、特に日本の市場を考える場合、フィーチャーフォンからの移行という点でまだまだ課題は多い。日本独自の発展を遂げていたのは上位レイヤーのサービスだけではない。日本のフィーチャーフォンは、端末に実装する通信のプロトコルスタックのレベルで実に多くの工夫が施されている。通信アナリストの視点から見た「なぜ・いま・これから」をUBS証券 株式本部 株式調査部 アナリスト アソシエイト・ディレクターの梶本浩平氏に聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro


UBS証券 株式本部 株式調査部 アナリスト アソシエイト・ディレクターの梶本浩平氏
UBS証券 株式本部 株式調査部 アナリスト アソシエイト・ディレクターの梶本浩平氏

 なぜ日本で普及し始めたか。まず価格面が大きいと思う。各通信事業者は月々の利用料から端末代金を割り引くサービスをしている。そうするとスマートフォンの実質売価は1万5000円から2万円程度になる。そこは間違いなく普及を後押ししているだろう。

 ただ、当然安いだけでは売れない。たとえ0円にしても、売れないものは売れない。例えばAndroid 1.6を搭載した初期モデルがそうだ。フィーチャーフォンで得られるであろう効用や体験を上回るものをスマートフォンで得られるとユーザーが感じられるかどうか、が大きいと思う。スマートフォンの場合、フィーチャーフォンに比べて月額通信料金は高くなるからだ。

パケット定額料金の上限張り付き率が上がる

 日本の携帯電話事業者がスマートフォンの販売を進める理由の一つは料金。フィーチャーフォンのパケット定額料金の上限は4000円強。それよりもスマートフォンのパケット定額料金の上限は高く設定できる。音声ARPU(Average Revenue Per User)は年々下がっている。データARPUで稼ぐためにはもう一段高い上限に張り付かせたい、そういう思いもあると思う。

 フィーチャーフォンの場合、セッション容量が制限されているなどパケット通信を抑える工夫が随所に盛り込まれている。そのため、パケット定額料金が上限に張り付く人がそれほど多くない。上限張り付き率はフィーチャーフォンの場合50%を切っている。スマートフォンだとほぼすべての人が上限に張り付いてしまう。

 事業者の端末調達コストも下がる。フィーチャーフォンの場合、日本国内だけの規模の経済しかはたらかない。グローバルメーカーのスマートフォンは規模の恩恵を受けることができる。