政府は2010年(平成22年)6月に定めた新成長戦略において、「BCP(事業継続計画)を持つ企業を2020年には大企業でほぼすべて、中堅企業で50%とする」ことを目標に掲げた。それに先立ち2010年3月に発表された内閣府の統計(「企業の事業継続及び防災の取り組みに関する実態調査について」)によると、策定済みは大企業の27.6%、中堅企業の12.6%であった。さらに「BCPを知らない」という企業は大企業の12.0%、中堅企業では45.3%に達した。

 中小企業では、中小企業庁や各都道府県の商工部局が促進策を展開しているとはいえ、策定済み企業の割合がさらに低いであろうことは議論の余地がない。

中小企業ならではの取り組みやすさに目を向けよ

 一般に中小企業は、財務基盤が弱く特定の販売先に売り上げを依存しがちなうえ、少人数のため法対応やISOなどの制度対応が遅れがちと言われる。しかし中小企業ならではの利点を生かせばBCPは必ずしも不得手とするものではない。

 トップダウンで決断が早い、少人数のため新技術導入などの施策の徹底が容易、業務フローがシンプル、といった特徴が中小企業にはある。事実、技術革新や海外進出を積極的に実施している企業も少なくない。こうした長所を生かせば、BCPを「積極的に推進すべき企業経営そのものである」と捉えて取り組むことは可能なはずである。

 しかも後で詳しく述べるが、大企業よりも中小企業のほうが、代替戦略を検討するに当たって他企業との協力関係を構築しやすい。中小企業は業務がシンプルで重要業務が絞りやすくトップダウンで素早い判断ができ、商圏が重ならない同業者も多いからだ。一方、大企業はビジネスラインが複雑で社内に事業部や事業ラインが複数あり、特許や営業戦略などが多様なうえ、商圏が広いことから、他企業との協力には制約が多い。

東日本大震災における中小企業のBCP実践事例

 BCPを策定済みの状態で東日本大震災に遭遇し、事業を継続できた中小企業もあった。以下では4つの事例を紹介する。

事例1

 A社では、地震や津波が来たとき、従業員の半数が就業できないことを想定し、重要業務をあらかじめ絞り込んでおいた。津波の被害は事前の想定をはるかに超えたが、従業員がすぐに自分の役割を理解し素早く行動した。そのため非常用発電機の手配、被災した事務所の修復、あらかじめ代替場所に準備していた交換部品や工具などを取り出し素早い復旧を実施できた。

事例2

 宮城県のB社は重要業務について山形県の同業他社と事前相互支援協定を結んでいた。津波により自社のプラントが大きく損壊したが、事前協定により山形県の同業者に処理を依頼し、自社のブランドによる操業を継続できた。

事例3

 一般に中小企業では社長が現場を指揮することが多いが、C社では社長が地震発生時には出張をしており不在であった。しかしあらかじめBCPを作成しておいたため、従業員が何をすればよいか分かっており、素早く対応できた。

事例4

 あるケーブルテレビ会社は、あらかじめ地域の拠点病院を代替場所に定めておいた。そのため、津波で流された放送設備を従業員が総出で拾い集め、代替場所でテレビ放送を続けられた。

 このように、中小企業であっても有効なBCPを策定していた企業はあり、想定を超えた規模の地震や津波を被っても、実際に機能したのである。