米国では、科学分野に起業の手法を応用しようという取り組みが始まった。NSF(全米科学財団)が始めたプログラム「イノベーション部隊(Innovation Corps)」で、6カ月の実験と学習、発見の反復を通じてビジネスモデルを見出そうというものである。この取り組みが、科学分野における米国の活力を生み出すかもしれない。(ITpro)

 シリコンバレーは、科学者とエンジニアが牽引する応用実験の時代に生まれました。その応用実験は、純粋な研究というよりは、学びと発見、反復、そして実行を通じて、市場に製品を送り出すという、大きなリスクを負う文化と言えるものです。このやり方が、シリコンバレーのアントレプレナーの気風を形成しました。 スタートアップ企業では、資金が続く限り失敗は経験と見なされたのです。

 ベンチャーキャピタル(VC)と技術アントレプレナーシップの相互関係は、過去50年のビジネス分野における偉大な発明の一つです。VCは、実験も証明もされていない技術とアントレプレナーに、私的な資金を提供するのです。ほとんどの投資は失敗するものの、ひとたび成功すると、その見返りは非常に大きく、失敗した投資分は十分に取り戻すことができます。失敗と実験を許容する文化、そしてリスクとリターン(見返り)、途方もなく多額のリターンのバランスをとる財務構造によって、米国、特にシリコンバレーでは技術集団が繁栄しました。

 とはいえ、このシステムは完璧ではありません。大学の研究所にいる科学者とエンジニアにとってみると、損益計算書、貸借対照表、ビジネスプラン、収益モデル、5年間の事業予測などVCたちが信奉している手法は、別の惑星の出来事のように見えます。科学的手法と、企業を創業することの間には、あまり共通性があるようには見えないからです。この問題が、米国の優れた科学的研究を商用化する障壁になっていました。ただし、それは今日までの話です。

NSFで意欲的な新プログラムがスタート

 2011年7月28日、予算総額68億ドル(約5440億円)の政府機関で、医療以外のすべての科学とエンジニア分野の研究を支援する全米科学財団(NSF)は、科学者とエンジニアがスタートアップ企業を始める環境を変えようという試みを始めました。NSFは、米国の大学の研究所で最も有望な研究プロジェクトを選び、それらをスタートアップ企業として創業するプログラム “イノベーション部隊(Innovation Corps)”の設立を発表したのです。そこでは、実験と学習、発見というステップを含むプロセスを通じて、科学者やエンジニアを訓練するのです。

 NSFは、毎年100件の科学とエンジニアリングの研究プロジェクトに資金を供与します。このプログラムに認められたチームは、5万ドルを受け取ります。

 大学の革新技術を商用化するため、NFSはイノべーション部隊のチームを学校に派遣することにしました。起業を、仮説の検証と実験の繰り返しで解決できる研究プロジェクトとして扱うことを、科学者とエンジニアに教えるのです。このクラスは、スタンフォード大学テクノロジー・ベンチャー・プログラム(スタンフォード大学工学部のアントレプルナーシップ・センター)で開発した、Lean LaunchPadクラスの一つのバージョンと言えるでしょう。

 NSFの取り組みは、大きな出来事です。単に科学者とエンジニアのためだけでなく、米国の理工系大学のためだけでもなく、革新に向かって成熟した発明を、大学の研究所から社会へ送り出す方法だと思うからです。もしこのプログラムが成功すれば、基礎研究とビジネスを結び付ける方法が変わります。その結果、より多くのスタートアップ企業が創業され、新しい仕事が生まれるでしょう。